路面電車を考える会例会 講演録28


「新規導入車グリーンムーバーmaxへの進化」
 〜広電技術者からの視点で〜

     広島電鉄株式会社 電車カンパニー
     技術グループマネジャー 藤元 秀樹氏

   
05.2.7
講演日時:2005年1月27日 6:30p.m.〜8:20p.m.
会場:広島市市民交流プラザ


館主前言:
 藤元秀樹氏は広島電鉄電車技術のエキスパートとして生粋に育った技術者である。氏は1999年グリーンムーバー導入に際しては長期間ドイツSIEMENS社に駐在し、日本向けグリーンムーバー(5000形)車両仕様の調整と製造監督、日本への搬送の責任者を務められたことでも証左されよう。
 今回のグリーンムーバーmax(5100形)は外国製では日本の風土的仕様を満たされぬものを国産化にて完全に果たそうとしたグリーンムーバーの発展型製品であり、グリーンムーバーの進化型と言える。従って講演内容はグリーンムーバーの技術特徴および、それを如何に日本的・広電的視点から改良工夫をしたかの技術比較的内容になっており、maxの特徴が詳しく解説されている。

藤元秀樹氏略歴
1954年 広島県大竹市生まれ
1979年 明治大学工学部卒業
〃     広島電鉄株式会社入社
1995年 同社電車部車両課長
2002年 電車カンパニー ・ 
 技術グループマネジャー 現在に至る


藤元氏講演要旨  

  • maxについては今のGreen Mover と比較して話さねば理解できないので対比的に説明することにする。
  • 1997年に熊本市に始めて低床車が導入され、同年に当社でも低床車導入意見が出た。
  • 当時は低床車とはどういうものかの疑問もあり、国においても「人に優しい次世代ライトレールシステム開発に関する調査」が立ち上がっていた。
  • 名称の由来はGreen Mover が軽快性、利便性の象徴であった。今回は居住性の大改良をイメージしてmax(究極の)とした。最終の意味ではない。
  • バルセロナでアドトランス、シーメンス、アルストムがLRVのプロトタイプを走らせたのが注目されていた。

    ヨーロッパ的特徴とは・・・・・・
  • [編成モデル]1軸台車などで長さを調節。 18m〜42mまで調節。
     (注)広電のGreen Mover はSIEMENSにとっては例外仕様:長さ、パンタが2個、クーラーを付ける、その他
  • [台車]駆動装置以外は全く共通。 車体は共通で台車の巾で調整でき量産可能。 
  • [搬入]ヨーロッパでは試験線で走り込んだものをトレーラー1台で運び、そのままレールに降ろし営業開始をする。
    日本では工場にて組立試運転し、搬送後営業線にて再試運転をするので手間が掛かる。
  • [仕様]日本では各社事情の制約がひっかかり全部特殊型にて製造。
    exe:
    広電のmoverは長さは長いが在来型に比べ座席数が少ない。
    名鉄800形は車内にスロープを作るため前後の車輪直径を変えてある。
    鹿児島市電では台車を運転席の下にしたため運転席が長くなっている。
    岡山のMOMOは1067mmとわずか67mm広いだけで設計のやり直しをした。座席は工夫をされている。
    長崎電軌ではモーターを運転席下にし台車を後ろに置くようにした。それで通路巾が広くフラットにできた。
      
     
  • 超低床LRV台車技術研究組合:これらの事情を踏まえて研究組合ができ、日本式台車の研究が始まった。 参考ページ:「超低床LRV台車技術研究組合講演録」
       
    超低床LRV台車技術研究組合 試作台車

    目標を「通路巾800mm」にして狭軌用台車の試作おこなった。
  • 研究組合は3タイプを作ったが、このうちのBタイプがmax。Cタイプはダイレクトモータ式。
            ・
  • [ライフコスト]の考え方が大事
    メンテナンスが重要。 内容:オペレーション、電力費(=重量が軽いこと)
      
  • movermaxの比較
    1. 座席数増加を優先にした。 他の基本構成は変わらぬ。
    2. B車、D車の車掌側は入口ドアを1300mmから900mmにするだけで座席が2席できた。
    3. 長さはmoverの30.5mがmaxは30.0mとした。
    4. ボディ基本色がmoverの深緑(アクアグリーン)に対してmaxは水色がかった緑(★)。
    5. 入口上に大きく黄色(サニーイエロー)にて乗車口サインを付けた。
    6. 座席数、通路巾、空調はいずれも改良。座席定員を10席。
    7. 広島のシンボルである「もみじ」をたくさん取り入れた。ロゴ、車体、座席、カーテン等。
    8. 外観はmoverの角形=ドイツ形に対し、maxは丸みを帯びて優しさを表現。
    9. 運転席の左右窓下から人が見える。これは乗務員からの要望から。
    10. 行き先は幕式からLEDに変更。
    11. moverはボタンが多い。maxでは通常運転に使用するものだけを配列し、他はモニター操作をして表示をさせるようにした。 例えば空調操作、ドアの開閉表示、故障表示。 参考写真:「広島電鉄 max荒手車庫にて整備が進行」
    12. 座席巾も先頭車の43cmを70cmとした
    13. moverは蛍光灯が通路上真ん中一列であり、このやり方なら室内から天井機器がメンテでき合理的である。しかしmaxでは居住性を重視してダウンライトを座席真上に設けた。
    14. 座席のつかみ棒を大きくしデザインも握りやすくした。
    15. moverは吊革を真ん中天井に付けられなかったが、今回は真ん中天井に一列に取り付けた
    16. 通路巾は83cmから88cmに拡げた。実は90cmを要求したがこの2cmが厳しかった。
    17. mover は砂落下レール粘着方式であるが、maxではセラミック粒子を吹き付ける「セラジェット式」に変更し粘着力も増加させた。
    18. 先頭台車と中間台車のバネ形状を設計変更。
    19. E車。8座席で通路巾83cmを14座席通路巾1120cmへと大幅改良。巾は1200cmが目標だったが。
    20. E車の座席真ん中には仕切棒を入れた。空調も真ん中ダクト吹き出し方式に。
  • 通観して、今回の改善は国内に入っている外国車に優っていると思う。
  • 特に中間車をヨーロッパ式の標準台車枠にとらわれないで、広枠台車にしたことが大事な決断だったと思われる。
  • 外枠式台車を作ると値段が高くなるので当初はメーカー側も設計に苦労したが、外国との競争力がつくとの判断から受け入れて貰えた。
  • ヨーロパでも収容力の点からロングシート車が出てきた。それなら広電式ロングシート台車は日本製LRVのセールスポイントになるだろう。

Q and A
  • Q:ダウンライト照明は始めてか?
    A:日本では岡山MOMOや長崎電軌の低床車がある。メリットは天井のフルフラット。
  • Q:moverと比べてのコスト比は?
    A:イニシャル車両費が3億4000万円から3億2000万円へと2000万円低下。
      1編成目なのでまだ手作り部分が多い。
      電力費は同等。SIEMENSは総重量が軽く感心。
      部品供給は国産技術なので安定供給でき価格も安い。
      ヨーロッパは部品単価が国産に比べ高い。
      国産が出来なかったのはブレーキと弾性タイヤである。
  • Q:荷棚が増えていないが?
    A:増やすようコンセプトを出したが達成できなかった。窓が大きいので強度的に難しかった。隅の打ち出し窓にちょっと付けた。
  • Q:シートは改善したか?
    A:厚みは同じだが材料を変えてクッション性を増したつもり。
  • Q:量産の見通しは?
    A:今回は手作りで出来た部分もある。ある程度発注量があればやってもらえるのでは。
  • Q:遠足等でmaxの貸切はできるのか?
    A:基本的にはOK。但し今は1編成という制約があるが。
  • Q:技術組合の成果としてはmaxは第1号か?
    A:YES
  • Q:今後のmaxの増備予定は?
    A:来年度(05/4〜06/3)は3編成の導入を希望している。
  • Q:次の5102号は同一デザインか?
    A:ノー。5102号以降は改良すべきところは改良して製作する。

  館主注:
 藤元氏には1999年4月にも「空からやってきた超低床LRT車」の講演を頂いております。