路面電車を考える会例会 講演録22

     日本型LRV台車開発について
 


  超低床LRV台車技術研究組合技術委員会委員長 桝田 保氏
02.12.27
講演日時:2002年10月9日 6:30p.m.〜8:30p.m
会場:広島市まちづくり市民交流プラザ


館主前言:
 
熊本市電、広島電鉄の欧州輸入低床車に触発され日本でも一部輸入機材使用による低床式路面電車の製作提供が進められました。が、路面電車ファンとしてはやはり日本に適した純日本式低床車の開発が求められるのは当然でしょう。 先年国土交通省の音頭取りににて低床車の開発が発表されたので、その内容についてぜひ知りたいというのは念願でした。
 日本型低床車という場合、台車の開発については1067mm狭軌低床台車が果たして実現するのだろうかという危惧も実は持ち合わせていました。 今回はこれら知りたい内容について開発当事者であり研究組合の技術委員長である桝田氏から直接聴くことが出来ました。 
 
 理解したことはこの日本型LRV開発の見通しが出来たことが先日発表された広島電鉄の次期低床車導入の予告に繋がっていることはいうまでもありません。 広電情報へのリンクはこちらで


桝田保氏略歴
1948年 大阪生まれ
1970年 大阪大学工学部卒業
1970年 近畿車輛株式会社入社
1977年〜1992年 主として車両設計に従事
1999年〜2001年 近畿車輛でLRV台車の開発
2001年 
 近畿車輛車両事業本部事業総括部部長
 超低床LRV台車技術研究組合技術委員会委員長


桝田氏講演要旨

(1)技術研究組合成立の経緯

  • 平成10年の話だが当時の運輸省から「我が国は新幹線を作っているのになぜ低床車ができないのか?」の投げかけがあった。
    この技術的ネックの一番は台車開発である。それで台車開発への打診があった
  • 平成13年4月同省より50%の補助金を出して低床車向け台車開発をすることになった。 技術委員会の中には台車部会、駆動部会、制動部会の3部会があり同時に発足した。
  • 台車技術研究組合への参画組合員はアルナ車両、川崎重工、近畿車輛、東芝、東洋電機、ナブコ、日本車輌、三菱重工の8社
  • 目標は狭軌超低床LRV台車の研究開発を行い、社会のバリアフリーニーズに応えることにある
  • 台車の構成には駆動装置、制御装置、制動装置、台車枠などの要素開発が必要。組合はこれら要素を組み合わせた台車を製作し実証試験まで行うことにした。

(2)開発計画と状況

  • 運輸当局の要求仕様は下記のようなものであった
    1. 狭軌であること ∵日本の営業kmはこちらの方が多いから
    2. 100%低床車であること
    3. 通路幅は800mm以上を持つこと
    4. 日本の技術でやること
  • 台車は3タイプを作ることとした。 それはAタイプ Bタイプ Cタイプとした 
  • 台車については日本の台車メーカー3社がそれぞれ担当し、3種類とも製作をする予定。
  • 検証は台車枠の静荷重試験と疲労試験、それに台上回転試験。
台車構成は1軸車輪ステアリング方式で歯車装置は3段である
この台車は従来方式であるが、ディスクブレーキは歯車装置の反モーター側に装備したもの
この台車はギアレス式を採用している 
  • モーターの冷却はすべて密閉方式を採用している ただし課題は重いことで、軽量化に注力しているところ。
  • 台車上部の椅子腰掛け廻りは大事な要素。15年度にはこのへんも作ってみる予定。

(3)知的所有権について

  • 特許申請した段階で組合に報告することになっている。すでに何件か実績がある。
  • 報告を受けた知的所有権は基本的に組合共有のもので、組合解散後も参加企業は無償提供を受けることで合意している。 組合は15年度末にはクローズする予定。

(4)他の要素技術について

  • 駆動装置は3種、モーターは2種作ることになっている。 
  • これらはそれぞれ3種の台車に組み合わせて装備する。技術的評価を行っている段階で、公表する時期は決まっていない。


(5)その他

  • 低床車の場合雪の影響が大きいので、函館市、札幌市で調査をする予定。
  • 地方の路線にも乗ってみたけどやはり軌道状態の善し悪しが気になる。実情を調査しているところ
  • 芝生の案もあるようだ。熊本のインファンド工法軌道にも行って確認したがやはり静かであった。

質疑

Q1:ヨーロッパの特許との問題はないのか?
A:特許は全部チェックしたうえでスタートしている
  低床車はヨーロッパにくらべ20年遅れていよう。  

Q2:今の技術で路面電車の高速化と長大編成までいけるのか?
A:問題ないと思う。 今開発中のものは郊外70km、市内軌道で40kmは充分OK。

Q3:独立車輪にしたら振動の問題は起きないのか?
A:復元力がないのが問題。メンテナンスも問題あり。ということはまだまだ勉強が要る。

Q4:広島のGreen Mover はポイントでは揺れるがこの原因はなにだろう?
A:台車の問題が一番大きい。 Green Mover 、熊本9700、MOMOはそぞれ揺れ方が違う。

Q5:AタイプBタイプの全輪モーターは意味があるのか?
A:B型は一箇所にできる。Cタイプは各輪になる。これはモーターの諸元を合わせて作ったので特別の意味は無い。4個あり、1台の出力は25KWである。

Q6:アメリカへ200両輸出したそうだがどういう条件で走っているのか?
A:ニュウジャジーには70%低床車で出した。アメリカは車社会故側面から車がぶつかったときの強度を要求された。
  車の車種も指定されたが、実際の事故があり強度が充分証明された。
  郊外では100km以上で走行指定いる。  
  アメリカでは電車の見直しが行われている。 が、車社会故アメリカの車両メーカーは全部潰れいま電車メーカは今はない。

Q7:今試作台車は全部100%低床車か? もし標準軌をつくるとしたらどうなるか?
A:通路幅に対しては楽にはなるが設計変更が要る。駆動方式、制動方式はそのままでいけると思う。

Q8:どこかで走らせてみたいか?
A:車両まで作るのはたいへん。 特に電機品が。 が、組合としては量産対応まで考えておく。従って国産化の際には採用されうる台車になろう。