路面電車を考える会例会 講演録31

      「 路面電車からLRTへ 
        −わが国の課題−  」
 

        服部 重敬 (はっとり・しげのり) 
05.12.16
講演日時:2005年11月26日 6:30p.m.〜8:20p.m.
会場:広島市市民交流プラザ

館主前言:
 服部氏は名古屋の鉄道会社勤務の傍ら、世界の都市交通特にLRTについて研究を深め、その成果を鉄道雑誌や著作に発表されており、その活動振りは特に路面電車関心者にはよく知られていてご紹介するまでもないでしょう。
 本年まで雑誌「鉄道ファン」に「都市交通新世紀」として27回にわたり連載されたものを、目下編集中。来年・06年4月には山海堂から出版される予定です。


服部重敬氏略歴
1954年 名古屋市生まれ
1972年 富山大学経済学部卒業
 〃     名古屋鉄道(株)入社 
1998〜99 名古屋市総合交通21検討委員会委員
1998〜2000
 電気学会「LRTシステム技術調査専門員会」委員


服部氏講演要旨

  (挿入作図は服部氏提供)


●目本と世界の路面電車の現状

  •  路面電車再評価の動きに反し、路面電車の利用者は、近年8年間で15%も減少している。しかし、都市人口が多いこともあり、運行されている路線のキロあたりの乗客数は世界でもトップクラスである。
     一方、世界にはおよそ360都市で路面電車が運行され、路線長はおよそ15,000kmに及んでいる。この25年間で、世界86都市でLRTが新規開業した。近年は、欧州、特にフランスやスペインでの開業が多い。地表集電システムやハイブリッドLRVなど、新技術が登場してい'る。
    
          キロ当たりの乗客数は世界でもトップクラス

●なぜ欧米ではLRTが選択されるのか

  • 過度の自動車への依存により、都市が抱えた課題に対して、交通主導でまちづくりを進める都市が増えてきた。こうした中、まちづくりを支援する機能を持ち、低コストで整備が可能な交通システムとしてLRTが選択された。

●LRTの本質

  • LRTは単に路面電車を近代化しただけではない。路面電車をLRTとして機能させるためには、以下のような交通システムとしての要素を満たす必要がある。
    1. 利用者本位のサービス・・・・…運行間隔、運行時間、運賃制度、設備など
    2. 交通機関としての質の高さ・・…速達性、快適性、乗降性、デザインなど
    3. 都市計画と連携・・・・・・・…まちづくりの上位計画との連携
    4. 多様な交通モードの統合・・・…マルチモーダルとインターモーダル
    5. シンボル性を持つ都市の装置・…都市のランドマーク、個性化
     欧米ではLRTは環境に配慮した暮らしやすい町の象徴となっている

●わが国都市交通の課題

  • 都市の公共交通は商売としての扱い(特に民間事業者)…・使いやすい都市交通は本来は行政サービスのひとつ
  • 地方独自で使える財源の不足
  • 道路交通と公共交通が別組織…・海外では都市圏全体の交通を扱うMPO(都市圏計画機構)を設立して、道路交通と公共交通を一体として計画策定
  • 社会便益より採算性を重視

●富山ライトレールヘの期待

  •  まちづくりのコンセプトと合致。欧米のLRTと同じように採算性を基準とするのではなく、自動車に代えて利用してもらえるだけの高いサービス水準を開業時から確保している。
     しかし、財源の確保、併用軌道部分が少ないことから合意形成に間題が少なく、計画発表から3年弱で完成したことなど、特殊事例になる危倶もある。

●フランスの交通事業者が指摘するLRT成功の鍵

  • LRT専用車線:必要不可欠
  • 信号での優先装置
  • 乗り換えても通し運賃で計算する統合乗車券(共通電子乗車券だけでは不十分)
  • バス、地下鉄、LRT間のスムーズな乗り換え
  • バスとLRTの連携
  • A地点からB地点までスピードが全て

●LRT整備に何が必要か

  • 首長のりーダーシツプと担当者の熱意
  • 明確なまちづくりへの方針
  • 都市交通に対する責任と負担の明確化
  • 地方の交通は地方で考える(行政、事業者、住民)
 LRTはそれを造ることが目的ではない。都市の装置として、どのようにまちづくりに活用するかが必要。LRTは持続可能なまちづくりに最適の交通システムであり、交通機関としての役割を超える意義を見いだすことも可能。
 今後、公共交通整備による都市生活の質の向上は、都市の差別化につながるのではないか。

              服部重敬氏著作紹介:「都市と路面公共交通 −欧米に見る交通政策と施設−」
                               西村幸格 服部重敬 共著 (2001/1/18掲載)