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この低床車を日本で初めて、熊本市交通局が導入決定し平成9年5月には試運転を、9月に営業運行開始という計画で進めている。日本にはこの技術はないので、欧州で最も普及しているドイツのAEGから台車を輸入し、2両連接の車体は国産により生産することとし、新潟鐵工所にて建造したものである。2億円余とかなり割高な電車になる由であるが、日本で第一号の低床車が、LRTへの道を切り開くことが期待される。
ロ.新線計画への期待
かたや、路面電車にも、ようやく新線計画が論議されるようになった。長崎市は建設省の補助も得て、公共交通網再編計画の策定を進めているが、そのなかで長崎軌道の1号系統7.3kmを、さらに赤迫から滑石地区まで3.2km延長する計画が検討されている。滑石地区は市内最大のベッドタウンのひとつで、延長問題は20数年来の懸案であった。道路拡幅その他の課題もあるが、黒字経営が難しい新交通システムとは違った形で公共交通網の再編が考えられていることは、大いに注目される。
一方、岡山市では、岡山商工会議所は平成6年にまとめた都市活性化構想のなかで、L字型の路線2.3kmを新設、岡山駅を起点に市中心部を環状化するプロジェクトを発表した。岡山電気軌道は採算がとれない、と慎重だが、地元経済界は意欲的のようだ。このほか、4年前になるが、関西経済同友会都市問題委員会が車優先の社会から人尊重の都市に転換するため、都市内交通体系を捉え直し、京都市の市街周遊路線案を提案した。また、函館市では昨年、JR函館駅周辺の再開発に関連して、駅前停留所を約100メートル動かし、一帯をトランジットモールにする構想が提案された。しかし朝市関係業者等が車が締め出されることを懸念していることから、今後の検討課題となっている。
ハ.安く建設できる路面電車
路面電車の路線延長は、長崎電気軌道の大まかな試算では、キロ当たりの建設費と車両で約30億円かかると見られており、仮に建設費だけで見ると地下鉄に比べて10分の1(川の多い広島ではキロ500億円ともいわれている)、新交通システムに比べて3分の1以下(広島のアストラムラインの例)ですむ。欧米のLRTは専用軌道も少なくなく、高架や浅い地下・路下を走る例も珍しくないので、建設費はより高くつくだろうが、それでも地下鉄や道路の上を高架で走る新交通システムなどに比べると格段に安くつくはずである。LRTは輸送力からいっても新交通システムに匹敵し、1時間当たり15.000人〜20.000人を運べる中量輸送機関である。しかし、日本では路面電車の路線延長ひとつとっても、地元自治体が都市計画の一貫として強力に推進するのでない限り、望めないといってよい。国や都道府県が3分の2弱を助成する制度は、地下鉄や新交通システムにしかないという制度が障害であった。平成8年に発表された建設省の路面電車事業への助成は画期的な政策変更というべきである。黒字経営を含めて全国19事業者すべて、自力で本格的な投資をできる事業者はいない。地下鉄や新交通システム
に匹敵する国の助成制度がますます整えられるべきであろう。
4.楽しい乗り物…路面電車
イ.世界の路面電車が走る
広島や長崎をはじめ各地の路面電車では、廃止となった事業者の中古電車が元気に走り、観光客や旅行者のノスタルジアをかきたてていることはいうまでもないだろう。なかには珍しい海外の中古電車が動いている都市もある。とりわけ力を入れているのは高知市の土佐電鉄である。同社は1994年4月、平成5年度の国際交通安全学会賞を受けたが、その理由は「世界の電車が走る街−地方都市の活性化と国際親善−」だった。現在、ドイツ、ポルトガル、ノルウェー、オーストリアの電車が走っており、さらにチェコとイタリアの市電も準備中という。土佐電の経営は厳しいが、地域の活性化に貢献している。日本の法基準に適合させる改造技術も立派である。
ロ.張り切る愛好団体
同様に経営の厳しい函館市交通局には二つの愛好、応援市民グループがある。そのひとつ「北海道夢れいる倶楽部」(平成7年8月から函館都電倶楽部を改称)は、運動のひとつとして市電の代表車両である500型電車の補修と塗り替えの助成活動をしている。オーナー制度による電車の系統・行先板を市交通局へ提供するなどの事業もしている。また、もうひとつの「チンチン電車を走らせよう会」は、かつての女性運転手らを中心に結成され、古い39号系電車の復元にあたっては、その費用の一部に同会からの寄付金が当てられた。土佐電が復元したチンチン電車“維新号”も、「土佐電鉄の電車を愛する会」など高知県民、市民の募金を仰いでつくられた。
ちなみに、現在、全国で9つの愛好・同好団体を確認しているが、そのなかで比較的新しい会は、富山県高岡市の加越能鉄道の万葉線活性化のため結成された万葉線対策協議会の一環として、’95年夏つくられた「万葉線を愛する会」である。もっとも新しい団体は’95年広島サミット時に結成された岡山市の「路面電車と都市の未来を考える会」である。
ハ.イベントは多彩
親しみやすい路面電車を活用したイベント電車は多彩だが、そのうちの二三を紹介したい。鹿児島市交通局は毎年6〜8月「走るビヤホール薩幌館」の名でビール電車を営業。(他に富山地方鉄道や長崎電気軌道も走らせている)カラオケ電車は、年間300件も貸切電車が走る大阪市の阪堺電気軌道のほか土佐電、鹿児島市営など。コンサート電車は、岡山電気軌道がまちかどコンサートとして先年9月に2回目を開催。岡山は風鈴電車、ギャラリー電車、クリスマス電車(ツリーを飾る)などイベント電車に力を入れている。古い電車の復元は函館市、土佐電鉄以外にも広島電鉄の大正電車、京都市の京福電鉄の建都1200年を記念したレトロ調電車2両など事業体の多くが持っている。豊橋鉄道がある愛知県豊橋市には、活発な活動で知られる「とよはし市電を愛する会」があるが、ここでは4月10日を市電の日と定めて、コーラス電車を走らせ、新しくつくった市電唱歌も合唱するなど楽しい行事としている。
なお、あらゆる面で女性の活躍が目立つ時代、戦時中にあった女性運転手が再登場している。岡山電気軌道には現在4人の女性運転手がいて、小田急電鉄とともにもっとも数が多い事業体のようだ。熊本市交通局にも一人いる。さらに東京都、鹿児島市が各1名教育中である。
5.地下鉄、新交通なみの助成に燭光が
地下鉄や新交通システムには、国と都道府県から建設費のほぼ3分の2の補助があるのに対し、普通は路上の軌道を走る路面電車については、建設費の助成はなかった。 主な補助金は、鉄道軌道欠損補助金(土佐電に出ているが打ち切られようとしている)、鉄道軌道近代化設備整備費補助金(新型電車導入の広島電鉄など)が中心である。鹿児島市は、平成3年度までの5年計画でセンターポール(軌道間の中央分離帯の電車架線用支柱)化を完成したが、他にも部分的にはあるものの、センターポール100%というのは鹿児島市だけである。道路整備が進み、電車が市交通局の事業で、都市景観事業の一環として踏み切ったから実現した。
このように路面電車に対しての建設費の補助は差別が大きかったのだが1996年(平成8年)に至り建設省が従来の路面電車に関しての補助政策思想を大転換して本年度(1997年)から建設補助金を新たに出す方針、との報が伝わっている。
イ.建設省の都市交通改善への取組み
建設省は平成7年度より都心交通改善事業に路面電車関連の停留所の上屋根設置や歩道との段差解消などなど助成を始めており、この助成が大いに進むことを期待したい。 事業体関係者の話では、建設省は欧米のように部分的な高架や地下、路下化事業などについても具体的な措置として考えているとのことだ。 助成は国、自治体、事業者がそれぞれ3分の1ずつ負担する仕組みであり、路面電車関係事業として、さらに本格化して欲しいものである。 そのためには、しっかりとした都市計画の中で道路・交通計画が打ち立てられる必要がある。その場合、電車が公営事業の場合は自治体内部のことなので都市交通での位置づけや具体的な計画をつくりやすいが、民間事業者の場合は利害がもろにからんで難しい。そういう意味で、公私を問わず路面電車事業体がある全国の都市がつくる路面公共交通研究会(16都市加入、うち公営は4都市)に協力し、路面電車に対する暖かい交通行政になることを望みたい。
ロ.路面電車優遇の行政を
これまでの路面電車の生き残りのカギのひとつが、軌道敷内の車両通行禁止などの電車優遇行政であることは広く知られている。行政がらみではさらに、各事業体が力を入れている全面広告電車に対する自治体の景観、広告条例の規制がある。自治体によってかなり幅があり、都市の美観と生き残りとの接点をどこに求めるか、といった問題もある。加えて運輸省や建設省などの規制緩和の問題もある。JRや私鉄などの関連では経済界も声高に規制緩和を叫んでいるが、業界として小さい路面電車の場合は、規制緩和の具体的要望などを聞くことも少なく、乗客の立場からみると不都合な点は少なくない。 最後に、今年開かれるサミットにおいてもこうした幅広い路面電車振興策も取り上げることを望んでおきたい。
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