06.1.1

 広島カープの本拠地「広島市民球場」は市内のど真ん中にあり交通至便、市内県内どこからも容易にアクセスできる。しかし建設から48年を経て老朽化が著しく、狭いグランドや観客席等課題が山積。建て替えには誰も異議ないが、現在地に狭いのを我慢して建設するか、広島駅東部の旧国鉄貨物ヤード跡地で今は市有地で2倍の広い敷地が使える新球場に建設するか、の大論争を巻き起こした。結局、跡地利用に決まったが、建設資金はコスト最小にて実施することもお決まりの様子。広報によると「アクセスは、広島駅からの徒歩を基本とし、安全で快適な歩行者の動線、周辺の車道、必要な駐車場を整備します。今後、具体的な検討を行います」と公表された。

 市民なら誰も承知だが、新球場予定地にアクセスする大洲通りは平生でも有名な渋滞道路。試合日・イベント日にバスやマイカーが果たして動けるのか?と危惧するところ。市の計画である広島駅からの歩行道路は1km弱もあり、ちょっと遠すぎるのではないか?との疑問が湧く。館主の直感だけど、多分初年度と2年度当たりは珍しさ、新鮮さから徒歩もOKだろうけれど、皆さん遠さにうんざりして観客数が徐々に下がってきて別の苦しみが生まれるのではないかと危惧する。 JR新駅が球場前にできれば便利だが、先年、新球場予定地のすぐ東に天神川新駅が出来たばかり。その中間にJR新駅がまた?

 折りしも広島市が市民対し「新球場へご意見をお寄せ下さい」と11月15日期限で公募があったので、早速広島LRT研究会は現道路に加え旧宇品線の廃線跡用地を利用した新規LRT軌道を単線ループ形式にて思い切って敷設し、運営してはいかがか。またこの機会に懸案の路面電車広島駅と中心部を結ぶ路線を新駅前大橋経由に改造して時間短縮を計り、利便性を高めることを実行すると、この新線との相乗効果が生起する筈との案を作成し提出した次第。

 18年度に球場の設計と道路の実施設計を行い、19年度に着工。21年度のプロ野球シーズン開幕に合わせる計画。市は11/27に「市民意見を反映させたい」とし表明しているので今後の推移をしっかり見守りたい。

左は都心にある現在の市民球場(広電の球場前電停がある) 右:新球場用地(上部ヤードは広島駅)
                                           (資料:広島市広報)
 広島LRT研究会が広島市に提出した現行路線改善と新球場へのLRT新線敷設プラン

広島LRT研究会が広島市の意見公募に対し提出した応募本文
                                                 2005/11/15
広島市新球場建設の意見公募担当係宛

            新球場 公共交通アクセスにLRTを

                                               広島LRT研究会
                                               代表 山根政則

(1)提案主旨
@市の構想では「新球場への広島駅からの徒歩を基本とし、必要な駐車場を整備」となっているが距離は1km弱もあり徒歩には長過ぎる。(筆者が球場正面予測入口から広島駅正面入口まで実際に歩いてみたら1,300歩・13分かかった)

A特に高齢者、幼小年齢の人は長距離歩行を忌避する傾向が強いだろうし、これはイベント観客数低下の大きな要因になろう。(現市民球場再構築案への根強い動機の一つに、紙屋町から球場へのアクセスの容易さ・便利さがある)

Bクルマで来るのを前提とするほど駐車場は広くないし、クルマ中心は地球温暖化防止の思想からも公的集客設備としては疑問がある。クルマでの入場者はできるだけ少なくする前提で考えるべきである

C公共交通中心のアクセス手段として、大洲通りと建設中の段原蟹屋通りはバス用に、広島駅からJR線路沿いの友愛通りにはLRTを敷設して棲み分けを計る。

D球場へ直接乗り入れるLRTが設備されれば、広島市市内居住者、宮島沿線、宇品地区のような南部の居住者もLRTを使用して楽な直接乗り入れというアクセスが期待でき、来場意欲が増すであろう。この事は新球場が野球のみでなく各種イベント開催を想定している点からも大事な条件。


(2)LRT(Light Rail Transit・近代化路面電車)案の詳細
@LRTの実例は、既に広島市で走行している広島電鉄のグリーンムーバーやグリーンムーバーmaxにて代表されるように、「低床で乗り降りがしやすく、車内の空調・採光・座席・車椅子への対応等が優しいように工夫されており、かつ高加速、高減速の運動機能を備えた近代化された電車」である。

A公共交通棲み分けの思想から、LRT側は広島駅から愛友通りを経由して球場西側正面入口、次いで裏の外野入口に至る間を走行する。バスは大洲通りほかの道路を利用。

B愛友通りは道路幅が狭い。高価で時間が掛かる道路拡張を図らず、LRTは単線でこの道路北側を通し、球場をループで回せば建設可能。ヨーロッパの都市ではこの事例が多い。
電車運行の関係で複線区間が一部でも必要であれば、旧国鉄宇品線の路線跡利用も考えられる。対象としては荒神陸橋東からなら即時OK。愛宕踏切付近からにすると移動対象建築物が敷地内にあり、ちょっと難。

C歩行者の安全確保と愛友市場地区の活性化との相乗効果を考慮し、アッセ東隣のビル(フタバ図書GIGAのあるビル)前の入口から始まり、荒神陸橋北のあけぼの通り付け根まではトランジットモールにして歩行者とLRT専用通りにし、クルマの進入を制限する。(現在でも人も車も少ない) 荷捌きトラックの時間制限利用を認める。LRTトランジットモールもヨーロパ各都市に見られる。日本各都市でもトランジットモールの実験はしばしば行われている。もし広島市で実現すれば日本初の快挙となり、我が国の見本都市になろう。

D愛友通りのLRTを通すには2ヶ所のネックがある。愛友通り入口が極端に狭いことと、猿猴橋町1と6の愛宕踏切の場所は道路がガクッと折れ曲がっている。この2ヶ所はどうしても一部家屋を削って直線化を計る必要があろう。特に愛友通り入口部分は新設大球場への入口の見地からもあまりにお粗末すぎ見苦しい。この点からも改修がぜひ必要と考える。

E愛宕踏切には電車優先信号を設ける

F広島駅〜新球場前の区間には荒神町と西蟹屋町の2ヶ所に電停を設ける。路面電車の駅間距離の標準・常識は300m、地下鉄なら600mである。JR駅も球場前を新設すれば便利に違いないが、駅距離間が1kmしかなく、また天神川駅を新設したばかりであり検討外とした。

G野球・イベント終了時の一斉退出時に備え、球場構内に電車待避線を用意する。現在の長編成車は1編成30mであるから2編成留置なら70m、3編成分なら100m必要となろう。電車待避線からは、入線時には対向電車を避けられ、退場時にはすぐにループを通じて球場正面に直行し客を収容できる弾力的構造がよいと考えた。

H球場乗降場はバスの乗降場との棲み分けを考慮し、LRT用は西側にし、更に裏側に広い電停(屋根付き)を用意する。車両は電車2編成分は必要で,長さ70mとなる。

I市内からLRTを球場に直接乗り入れるには現在の広電広島駅の進入方式のままでは不可能である。球場建設とは独立の懸案である広電駅前へのアクセスを今の猿猴橋経由から稲荷町→駅前大橋経由→広島駅経由に変更をこの際実行することが前提になる。

J新ルートに変更した際の広電駅前電停の現実的パターン作成は法令・実車運用技術等の知識や駅前広場の改修案検討が避けられず、市民レベルでは困難。市民案としては想定パターン提出に止め、詳細は専門社・運営会社・公におまかせしたい。


(3)LRT建設の課題
@建設資金の捻出と採算性の確認

A広島電鉄広島駅の改修と広場改修案との整合性をどう保つか

B猿猴橋町6の1〜6にある4・5階建ビジネスホテル、飲食店ビルの立ち退き

Cトランジットモールに慣れない市民への安全教育とその技術的工夫


(4)広島LRT研究会の紹介
 広島LRT研究会は1998年に発足し、広島都市圏のLRT・路面電車・公共バス関連の提案活動を行っている。これらのうちLRTに関連しては・・・
@1997年7月に広島市に対し「21世紀における広島市内軌道交通の改良提案」を提出し、高価な投資を伴う地下鉄建設計画案に対し平和大通りを貫くLRT建設方式の採用を提案

A2000年11月、広島市に「横川駅結節点改善提案」を提出。主な提案内容はJR改札口と広電新横川駅ホームを正面対向位置に変更、歩道と電停全面に上屋の設置、駅前に「日本バス発祥記念碑」を建設等。

B2002年2月、広島市に「西広島駅前(己斐地区)アストラム・バス・LRT共存による改善案」を提出。要点は、広域公園前駅からアストラムを市内へ延伸するなら己斐までに止め、西広島駅を橋上駅にして終点とし、市内へはLRTに乗り継ぐ方式を、というものである。
バス関連では2001年に「バスの超マップ」を初発行以来毎年の定時発行が知られているが、他に国土交通省にバス停の時刻表表示方式の改良案提示等の活動を続けている。

       上記の活動詳細については下記ホームページに詳しく記載:
       「路面電車を考える館」 http://www.urban.ne.jp/home/yaman/

(5)おわりに
 広島市への来訪者の広島駅降車時の印象と、TV全国版で広島市ニュースが報道される時に写される画面はきまって原爆ドームと広島電鉄の市内走行の風景である。両者は広島市の顔でありアイキャッチャーと言えよう。旅行者が広島駅から広島電鉄を利用し市内中心に入る時、もし路線が平和大橋通り経由になれば、美しくて市内交通至便の都市として直感的好印象を得られるのにとたいへん残念。ぜひこの機会に平和大橋経由線へ変更着手を検討願いたい。

                添付資料:「新球場 公共交通アクセスをLRTに図」

                            以  上