第2編

 森口 将之 : 
     
テーマ:マイナスのデザインへの提言
  がんばっている日本のデザイン例 「富山ライトレール」


06.9.1
掲載者:都市交通ジャーナリスト
掲載本誌:「Voice of Design」 日本デザイン機構機関誌 Vol 12-1  2006/8/10

館主注:栄久庵憲司先生の主催するデザイン誌「Voice of Design」の恵与を毎号受けています。今回の特集は『残念ながらわが国にはマイナスデザイン=無自覚な醜景が多すぎる』といいうものでした。多くの記事中で、「例外的に優れているものとして富山ライトレールのデザインを発見した」という記事を見付け!(@_@;) 今まで富山ライトレールについてデザインからの論評はなかったので、著者に関連記事をリライトして頂きご紹介します。

 これは画期的な乗り物かもしれない。開業後まもない富山ライトレールに乗って、そう感じました。

 JRのローカル線を第三セクターが運営するLRTとして復活させたという生い立ちも異例ですが、車両だけでなく停留所、サイン、広告など、すべてが美しく機能的にデザインされていることも、いままでの日本の都市公共交通にはあまり見られなかったことです。

 日本の都市交通を観察すると、同じ内容の看板をいくつも並べたり、識別のために派手な色を塗ったりと、むだな看板やおせっかいな表示が多いことを痛感します。それが日本の街を汚く、醜くしている要因のひとつなのです。ところが富山ライトレールはヨーロッパのLRTかと錯覚するほど、シンプルでクリーンな景観が展開されています。

 富山ライトレールのデザインは、東京に本拠を置く都市空間設計会社GK設計と、地元富山のインダストリアルデザイナーの協力で進められたといいます。ヨーロッパではLRT建設の際、計画の最初の段階からデザイナーを入れて設計を進める例が多いのですが、日本ではきわめて異例なことです。

 車両の造形はクリーンで、車内を含めていっさいの広告がないことが、その好印象に拍車をかけます。停留所には「電車乗り場」などの大きな看板は掲げられず、出口表示も最小限の大きさでまとめてあります。おせっかいな日本型デザインからの脱却を図ろうという、強い意志を感じるのです。

 公共交通に限らず、日本の都市空間を美しくするために必要なことのひとつは、悪いデザインにはNOを言うとともに、良いデザインには積極的にYESを言う、つまり褒めてあげることだと思います。

 みなさんも富山ライトレールに乗った際には、いっしょに乗り合わせた地元の乗客に、素晴らしいデザインであることを伝えてほしいものです。そうすれば住民はこのLRTに誇りを持ち、素晴らしいデザインとはどういうものかを理解するのではないでしょうか。

 そういった意識が他の都市にも広まって、日本各地に富山ライトレールのようなLRTが走るようになれば、この国の都市空間はいままでより少しだけ、美しく見えるようになるはずです。







論文集第1編

 曽根 悟 :
日本における路面電車の新設・拡張,LRT化の意義と課題


04.3.20
著者:工学院大学 電気工学科教授 (交通システム工学) 東京大学名誉教授
掲載誌:特定非営利活動法人 エコエネルギーによる地域交通システム推進協会
     「路面電車の未来に向けて」 -第1回〜第5回/路面電車フォーラム・論集-
                                         2003/2/15

館主注:LRT化については長年に渡って多数の記事、論文等の情報が流布されており読者もそれぞれ頭に入っているはず。曽根先生のこの論文の特長はそれら多数の情報を簡潔に一覧でき、知識の整理に大変役立つもの考えホームページ第1編用総括として掲載にふさわしいと判断しました。 
先生に確かめましたのですが、「記載項目は原則として重要なものから順に配列をした」そうです。


1.マイカーの限界とこれに代わるもの
  • マイカーは確かに便利ではあるが,都市では全員がこの便利さを享受することは不可能
  • Los Angelesの失敗,ヨーロッパ諸都市での都心部駐車場の大規模な閉鎖などからも明らか

 1.1 高速道路:高速鉄道

 1.2 大都市:鉄道(高架・地下)と他の公共交通
  • 都市の道路と駐車場に許される面積率はかなり低い
  • 都市は多くの機能が高密度に集積していることが魅力だから,交通も高密度のものを主体にしないと成立しない
  • 大量高速輸送は安全確保の面から道路との平面交差を避ける必要があり,高架・地下(堀割を含む)に路線を求めがちになる
  • 大量・高速路線と枝葉の路線との接続も重要で,同一プラットホームを挟む乗換え,直通運転も可能なら採り入れたい

 1.3 中小都市:軌道と他の公共交通 
  • ここでは軌道が都市交通の主役になり得るが,マイカーが必要な場面も残る
  • 極端な高頻度運転や不便な低頻度運転を避けるためには輸送力の調整が重要になる
  • 日本式の路面電車の多くは単車運転のみでこの条件を満たしていない
  
 1.4 田園地域:マイカーに代わるものは既存のシステムとしては少ない
  • 共用個別輸送システム,機能を拡張した自転車等の新システムの可能性がある一方,観光地等を含めて,LRT等の可能性もある
  • 多くの新システムと比べてLRTの有利な点は建設費の低さにある

    
2.なつかしいチンチン電車−郷愁の対象−からの脱却
  • 一般的には高機能化が必要
  • 乗ること自体や,乗り物からの車窓観光が重要な観光地などでは,郷愁の要素を活用できる場面もある
  • 高機能とは:短い待ち時間と高い表定速度,容易な利用,分かり易さ が主体


3.都心部の再活性化
  • 都心部は通過交通の増加と駐車が困難なため商業地として衰退に向かっているところが多い
  • これに対して渋滞緩和のために道路を拡張し,駐車スペースを増加させればよい,との誤解が多い 
  • 商店街を味方につけることが必要
  • 観念的反対から,実績に基づく賛成へ 〜さらには積極的誘致や主体的な建設へ〜
  • これには ヨーロッパの経験を有効活用すること 有効な結果がでるような社会実験が必要
  • 郊外の大型店との棲み分けにより両者が発展することが重要

  
4.日本での課題

 4.1 制度面での課題 筆者の手に負えない問題

 4.2 資金調達の課題 筆者の手に負えない問題

 4.3 交通事業者・交通管理者の閉鎖性
  • 公共交通の他事業者は『競争相手』よりも『仲間』である
  • ゼロサムの誤解からの解放が必要
  • 真の競争相手は公共交通の他事業者ではなく,マイカー
  • 交通管理者(交通安全協会・警察)の立場でも同様
  • 渋滞・事故・環境の全ての面からマイカーからの転移は効果的
  • 優れたシステムの実体験が効果的
  • スイス等に半ば遊びに行くことが大切
  • きまじめな視察よりも遊びで主体的に動く方が遙かに実態が見える面がある

 4.4 技術的課題
  (1) 高い表定速度の実現
  • 短い停車時間
  • 多数扉同時乗降
  • 運賃支払いとの分離
  • 停留所停車時間は大幅に短縮できる
  • 短縮するとともに,停車時間が予測できないと有効な優先信号も実現しない
  • 多数の扉からの同時乗降,場合によっては乗降分離,運賃支払いと乗降との完全な機能分離が必要
  • 高い加減速度と巡行速度
  • 扉近くに多くの着席スペースがあると良い このためには1方向運転は効果的
  • モータの制御としてはジャーク制御が必要
  • 高い巡行速度を実現するには路面走行でも自動車交通との分離が有効
  • 不要な停車の抑制
  • 優先信号の活用
  • 優先信号が成立する条件が必要
  • 優先信号の効用
  • 公共交通の高速化とそれに伴う個別交通の必然的な低速化
  • 意図的な低速化ではない

  (2) 短い待ち時間の実現
  • 輸送単位の適正化が不可欠
  • 過大な運転頻度をもたらす過小な単位輸送力の弊害も認識すべきである
     
  (3) 容易な利用の実現
  • 低床化だけが改善ではない
  • Metrolink (Manchester), 世田谷線方式でも良い
  • 電停の位置とアクセス,運賃支払方法,運転系統・直通化,乗継ぎの便等改善すべき要素は山ほどある
  • 超低床車=LRTの誤解から脱却することが必要
  • 路面走行にこだわってはいけない Tram-Train (Karlsruhe方式)
  • 乗り場の共用化等
     
  (4) 分かり易さとは
  • 目の前にあること,単純なこと(知らない人に),複雑でも必要な情報が得られること(繰り返し利用者にも) IPASSとEasyR!de
  • 人による案内も残す思想がほしい
     
  (5) 日本の安全文化での実現
  • 交通空間と歩行空間との分離策の見直しは可能か
  • 路面走行の最高速度は
  • トランジットモールで起きる歩行者事故の社会的許容限度は