98.6.20
岡山市の市民グループ「路面電車と都市の未来を考える会」(RACDA)では1998年「路面電車の日」を記念して、同市の城下地下広場で市民フォーラムを開き、独自に考案した段差のないLRTのパネルを公開しました。同時にシンポジウムでは、路面電車環状化による都心部活性化にむけてアクションプログラムを提案し、官民一体の協力を求めました。

当館はこの提案内容が、市民の具体的提案であることに着目し、同会の了解を得て当日配布資料の掲載を行うものです。  館主敬白   
  (左図は「路面電車の日記念電車」 路面電車の日ロゴサボが付いている 沼本浩司氏)
カラー画像を掲載したためたいへん重くなり、表示に時間がかかります。m(._.)m   

  RACDAでは当提案に対し、全国専門家からの意見、助言を求めています。
          E-MAILは racda@mail.bird.or.jp  です。



「人と環境にやさしいトランジットモデル都市おかやま」と
  路面電車環状化の早期実現をめざして

   

  第3回 路面電車の日記念 RACDAのアクションプログラム

RACDAでは、「人と環境にやさしいトランジットモデル都市おかやま」の実現をめざし、低コスト
でしかも既存交通にあまり負担をかけない次のような路面電車環状化プランを提案するとともに、
できるだけ多くの市民の方々や関係機関との協議を重ねながらその早期実現をめざします。

   アクション1)路面電車の一方向環状化プランの早期実現

 RACDAの提案する環状化プランは、進行方向左側の歩道部分を拡幅し、拡幅した歩道内
の道路側に路面電車の軌道を敷設、左回り一方方向の単線環状化を実現するプランです。(図1)
 つまり都心側の歩道をトランジットモール(路面電車のような公共交通だけ走れる歩行者
専用道路)化し、路面電車の水平エレベーターとしての機能をフルに発揮できる「人と環境に
やさしい都心公共交通サービス」を提供しようというものです。

 このシステムですと車道を横断することなく歩道から直接路面電車に乗り降りできるだけ
でなく、既存の道路交通への負荷が少なく、なおかつ複線の環状化に比べると6割程度の
投資コスト、運行コストで環状化が実現できます。もちろん場所によっては目的地まで余分の
到達時間がかかるといったデメリットもありますが、そうしたデメリットを補って余りある数多く
のメリットが期待できます。
 いくつかの環状化プランが考えられますが、当面は各方面からの要望の強い「都心の1キロ
スクエア」環状線を早期に実現し、様々な角度からそのメリット・デメリットを検証し、その成果を
次の路線開発に活かせるようにします。
 また需要の少ない路線は必ずしも路面電車にこだわることはないのかもしれません。



   RACDAの提案する環状化路線プラン(図1・2)

1.都心環状線 岡山駅→市役所→新京橋→西大寺町→城下→岡山駅の左回り環状化
2.医大前環状線 岡山駅→市役所→水道局→大学病院→清輝橋→柳川→岡山駅の左回り環状化
3.駅西環状線 岡山駅西口→済生会病院→運動公園(トランジットモール)→旧西警察署→昭和町
  →岡山駅  西口の左回り環状化
4.後楽園環状線 岡山駅→城下→美術館→後楽園口→岩田町→岡山駅
5.JR線相互乗入 岡山駅東口→岩田町→(高架)→岡山駅西口→吉備線・津山線路線・投資額等



路線名 路線距離(新設分) 所要時間 新規車両数 概算投資額
1.都心環状線 4km(2.3km) 20〜25分 4編成 22億円
2.医大前環状線 4km(1.1km) 20〜25分 3編成 13億円
3.駅西環状線 4.6km(4.6km) 25分〜30分 5編成 37億円
4.後楽園環状線 2.7km(1.7km) 15分 2編成 13億円
5.JR線相互乗入 0.5km(0.5km) 3分   50〜60億円


※1.〜4.のいずれの路線も一方向(左回り)単線環状化を前提としています。
※各路線とも評定速度12km/hとして5〜8分ヘッドの運行を目標に必要車両数を算出しました。
※2の医大前環状線については、1.都心環状線の岡山駅〜市役所までの既設を前提として
  います。
※5.についてはJR岡山駅から岩田町を経由して在来線を高架でまたぎ、吉備線・津山線に乗り
  入れるものとし、必要な投資額は高架鉄道の工事費等を参考に算出しています。これに吉備線・
  津山線の電化コストが別途必要になります。



アクション2)路面電車の岡山駅前広場乗り入れプランの発表

 公共交通機関の利用を促進するためには、利用者の視点に立った利便性の向上が不可欠
です。路面電車に限っていえばJR線との接続性をいかに高めるかということがポイントになり
ます。岡山駅前広場への乗り入れは鉄道利用者の利便性を飛躍的に高めるばかりでなく、
路面電車延伸の事業性を確立する上でも欠かせません。RACDAでは噴水の北側への乗り
入れを提案します。(図3、図4)

 このプランですと、JR在来線各線との接続性が飛躍的に高まるだけでなく、地盤沈下の著しい
駅前商店街への歩行者動線も確保できます。
 あわせて新幹線沿いに軌道を北に延伸させ、岩田町から在来線を高架でまたぎ、吉備線・
津山線への相互乗り入れも視野にいれたプランとしています。地下での相互乗り入れに比べると
数分の一の投資コストですみます。





アクション3)地方都市向け単車型LRTの開発についての提案

 政令指定都市を除き、岡山市程度の人口規模・人口密度の都市では、ヨーロッパの都市
で見られるような長編成の路面電車を走らせるほどの需要は期待できません。その意味では
単車型路面電車の開発は急務です。ドイツのシーメンスという車両メーカーがこのほど世界で
初めて単車型の超低床路面電車を開発したということですが、レール幅が1435ミリと1000ミリ
仕様のものだけで、岡山のような1067ミリ仕様の車両を開発する意思はいまのところないと
いうことです。

 日本における路面電車の復権には、JR在来線との相互乗り入れを視野に入れた単車型にも
長編成にも仕様を変更できる安くて高性能の低床型路面電車の開発が急務です。(図5、図6)

 RACDAでは都市事情に応じた高性能低床型路面電車の開発をめざす,国と車両メーカー、
それに事業者や有識者、市民からなる「産・官・学・野」の低床型路面電車開発のための国家
プロジェクトの早期立ち上げを国に働きかけていきます。





アクション4)路面電車支援のための財源に関する提案

 いま全国で路面電車を走らせている事業体は、公営、民営あわせて19事業体(全国路面
軌道連絡協議会加盟社)あります。しかし、そのうち黒字はわずか6社。黒字を出している
事業体も古い車両を大切に使い、あるいは極力人件費をおさえ、かろうじて黒字を出している
といった状況です。バスを走らせている事業体もほとんど状況は変わらないでしょう。このことは、
自動車交通を中心とした現行の諸制度や自動車交通に過度に依存した都市環境のなかでは、
路面電車をはじめとする公共交通サービスを運営維持することは無理ではないにしても、非常に
困難であるということを物語っていると思います。公共交通のこのような現状は、車を運転できない
お年寄りや主婦、子供たち(交通弱者)にそのしわ寄せがいっているということを意味します。

 路面電車の新設や延伸は、地下鉄や新交通システムに比べると格段に安上がりです。

 しかしそれでも1キロ当たり10数億円から20億円ぐらいはかかります。また、いま話題の低床
タイプの路面電車も、たとえば昨年熊本に入った車両は1編成2億3000万円と非常に高価です。
昨年度、その存在すら忘れられかけていた路面電車にもようやく陽が当たり、はじめて国の支援
制度(「路面電車走行空間改善事業」の新設と「都心交通改善事業」の拡充)が整備されました。
しかしこれも路盤や架線ポール、停留所などの建設支援に限られており、とても十分なものとは
いえません。

 このように、路面電車がいくら「人や環境にやさしい」乗り物だといっても、その採算性を考える
と現状では新設も延伸も非常に困難です。路面電車支援制度のより一層の整備・拡充と、その
財源的な裏付けがどうしても必要となってきます。

 財源に関してはいくつかアイデアがあると思います。その一つとして、たとえば現行の自動車税
(府県税)や軽自動車税(市町村税)に、路面電車をはじめとする「人と環境にやさしい街づくり」
を目的とした課税(法定外目的税)額を上乗せし、それを財源とすることも考えられるのではない
でしょうか。現行の法制度では無理なのかもしれませんが、今回の地方分権推進計画では、こう
したことを地方自治体の裁量で行うことができるようになると聞いています。もちろん住民や議会
の理解や合意が前提となることはいうまでもありませんが、一考する価値は十分にあると思います。

 RACDAの試算では、仮に岡山市において10パーセントの上乗せを実施すると、約6億円の
財源となります。30パーセントで18億円です。1800ccクラスの乗用車であれば、10パーセント
で4000円、30パーセントで1万2000円ほどの負担です。これを「人と環境にやさしいトランジット
・モデル都市おかやま」の整備財源とします。20年もすれば、岡山は世界に誇る「人と環境に
やさしい街」になっているのではないでしょうか。

 こうした税制や財源の問題を含めて、RACDAでは「人と環境にやさしい街づくり」をすすめる
ための仕組みづくりをみんなで真剣に考えることを提案し、その実現に努力したいと思います。



アクション5)路面電車版「市民街づくり会社」の設立

 人と環境にやさしい路面電車の新設、延伸に対する市民の期待が高まってます。しかし、
肝心の事業手法や事業主体について、十分な論議・研究がなされているかというと、必ずしも
そうではありません。なによりもその多額な初期投資コストをどうするのか、また現状でもそう
とう厳しい事業採算性をどう解決していくのか。従来の枠組みにとらわれない斬新な発想からの
事業手法や事業主体の開発がどうしても必要となってきます。

 そこでRACDAでは、路面電車の環状化と「人と環境にやさしいトランジットモデル都市おか
やま」の早期実現のために、世界に先駆けて路面電車環状化計画の事業主体となる「市民
街づくり会社」の早期設立をめざします。会社の呼称はもちろん「株式会社RACDA」です。この
会社は、市民・財界・行政が一体となって出資するいわゆる第三セクターですが、従来の行政や
財界主導の第三セクターではなく、長浜の「株式会社黒壁」のような市民主導の街づくり会社と
します。そのため役員は一切無給とし、たとえ利潤が上がっても、それは少なくとも100年の
遺産となるような「あとから来る人たち」のための街づくり投資に回します。

 こうした新しい発想からの街づくり会社の早期実現をめざして、一人でも多くの市民の方々や
財界、行政の出資協力が得られるよう、積極的なPR活動や関係機関との協議を重ねます。

                   以  上

     平成10年6月7日


                RACDA(路面電車と都市の未来を考える会)
                   会長 岡 将男ほか会員一同 


 追記 99/2に岡山RACDAのホームページが再開したのでRACDAへのリンクを新設 (99/2この項追加)

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