熊本低床車試乗会とシンポジュウム報告

     
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超低床電車LRT試乗会

日時 :  1997年8月9日 午後2:00〜3:40
走行区間:熊本市営交通車庫→健軍町→JR熊本駅前→通町筋
使用車 : 熊本市交通局 9701号車
搭乗者 : 行事参加者 約70名+ヒューマンネットワーク・熊本会員数名 
  • 今回の試乗には身障者であるヒューマンネットワーク・熊本の会員数名が、実際に車椅子を使用して実演をして見せたことに特徴があった。 このとき普通車=高床車の場合には介護者4名の手助けが必要であったが、LRTの場合は介護者は1人ですむことっが実証された。 また身障者は車椅子に乗り込んだまま試乗会に同行し、終点通町筋にて下車したが、停留所の幅が狭いため、下車にはそうとう苦心をさせられる様子がうかがえた。
午後2時、オフに参加者が三々五々集まってきた。 参加者を乗せた9701車
低床車なら一人でOK。高床なら4人がかりという実演には説得力満点。
運行中に技術解説する熊市交の宮崎さん。右は後ドアのモニターで運転手用。

シンポジウム「使いやすい公共交通とは どう変える、日本の都市交通」

日時:  同 日    午後4時〜7:40
場所:  熊本市上通 同仁堂ホール・スタジオライフ

報告「ノンステップ車両運用状況」 
              熊本市交通局 交通事業管理者 行徳 健次氏

  • 実績はまだ1週間だがフル運転中
  • 2両連結なので女性乗組員‘エルパーサ’3人を採用した
  • ステップがないのは好評
  • お客にとって座席の位置が変則とか、慣れぬためまだ時間帯がずれる等の課題が
  • これをきかっけに「LRTで都市づくり」のでかい議論が起きてきた

講演「日本の新しい都市交通システムとその課題」 
               新潟鐵工所 交通システム本部 大野 眞一氏

  • この車はまだプロトタイプである。 改良の余地は多々ある。
  • 建設費は  LRT    15〜20億円     くらいだが
            新交通  70〜120億円
           モノレイル 100〜190億円
           地下鉄   200〜300億円   といわれている
  • 表定速度は  熊本で13km だが ストラスブルグでは22km出している
  • 課題として
     自動車交通との分離
     低床車での乗降の円滑化
     高性能と低騒音化
     連接車と連結運転で輸送量UPを
     都市景観を損なわない工夫 例えば架線や電停構造
  • 目標として
     表定速度を 20〜25kmに
     輸送量を  3000人〜12,000人に上げる
     地下鉄並の定時性の獲得を
  • 熊本低床車の特徴
     従来の部分低床車と異なり100%低床車である。
     構造は車体1台につき台車1台形式。 2車体で2台車構造になっている。
     車輪の経は650φだが、床高は36cm 従来車は76〜81cm
     モータは本体に取り付け、プロペラシャフトで駆動
     エアを使用しないのでブレーキシューが無い
     ドアはプラグドアで両開き
     加減速性能はバス以上。 最高70kmまでの余力を残している

熊本市電9700型超低床車展開図                 (熊本市交通局パンフより)




台車構造。車軸はない。手前側はモータからの
接続ギア。車輪はゴム挟み込み弾性車輪。
      (熊本市交通局パンフより、右図も)

下:車椅子スペース。座席を折り畳んだ状態
上:搭載がないときには3人掛け折り畳みの
シートを座席として使用する。バリアブル

主要諸元

車   種
形   式
車両重量
電気方式
定   員
最大寸法
.
.
床 高 さ
.
出 入 口
台   車
主電動機
駆動方式
制御方式
ブレーキ方式
.
.
集電方式
補助電源装置
.
.
冷房装置
.
車両性能
.
.
.
製作担当会社
.
4軸ボギー連接電動客車                        
9700型 
21t
DC600V
76人(座席24人、立席52人)
車長 18,550mm
車幅  2,350mm
車高  2,940mm  3,546mm
通路    360mm
出入口   300mm
電動両開スライド式プラグドア   有効幅 1,250mm
ボルスタレス4輪台車(1車体1台車)ゴムばね、独立弾性車輪付
車体装架式三相交流誘導電動機(1車体1モーター) 出力100kw 
自在継手・スプライン軸組み込み3段減速
IGBTインバータ制御
回生・発電併用電気ブレーキ
ばね作用油圧緩め式ディスクブレーキ
トラックブレーキ
シングルアームZパンタグラフ
制御用 静止型インバータ AC300V 50Hz 15KVA
空調用     〃      AC200V 60hz  19KVA 
                   〃    〃   3.8KVA 
客室用  14,000Kcal/h×2
運転室用  3,700Kcal/h×2 
最高速度    40Km/h    (設計性能 70Km/h)
加速度     2.5km/h/s  (  〃   4.68km/h/s) 
減速度  常用4.6km/h/s  (  〃   4.68km/h/s) 
      非常5.0km/h/s   (  〃   9.7/km/h/s) 
車体・ぎ艤   株式会社 新潟鐵工所 
台車・電機品 ABB・Daimler-Benz Transportation (ドイツ)
                      
熊本市交通局パンフによる

講演「なぜ欧米でLRTが選択されるのか」 
                     都市交通研究家   服部 重敬氏

 
  • 路面電車の復活は実はアメリカで始まった
     アメリカでは車の製造会社が計画的に路面電車会社を買収してつぶし車の拡販の歴史。
  • 1968年 運輸省を創設し、その目玉としてデトロイトで新交通を設置したが、お金がかか
           るし使い勝手もいまいち → 路面電車の見直しへ。 名前もTRAMからLRT
           へと変更
  • 1978年 (加)エドモントン市で世界初のLRT
          現在   23カ国 50都市
          計画中  71カ国 25都市 
  • −     改良が進んだのはドイツ。  即ち、連接車とセルフサービス料金システム、
          軌道の分離で、路面電車が都市交通機関として機能することを世界に認識さ
           せた。    車社会から公共交通への転化。
  • 1987年 グルノーブル市で復活
           排気ガス・騒音対策、町のリモデルと活性化を意図、低床車の採用
  • 日本で導入するために
    1)車と別線、
      電車が来ると青になる優先信号方式を
      運賃収受システムの改善
    2)LRTを都市の装置として考える
    3)環境への配慮 ヨーロッパは敏感 LRTは有力な手段である
  • 日本での問題
     一気にはできない  ヨーロッパ、アメリカでは1960年から始めた
     10年、20年かけて花が開く


討論会「日本の都市交通の課題」運賃システム・運行システムを中心に」
   司会 服部 重敬氏  (都市交通研究家)
       丸山 力 氏  (バリヤフリーデザイン研究会員)
       東  俊裕氏  (弁護士、ヒューマンネットワーク熊本代表)
       八木 浩 氏  (NTT熊本支店長 )
       吉見 宏 氏  (北海道大学経済学部助教授、NIFTY)
       行徳 健次氏  (熊本市交通局交通事業管理者)
       大野 眞一氏  (新潟鐵工所交通システム本部副本部長)

  • グルノーブル市がLRT化ができたのは市民がそういうことに税金を使うことを望んだから
  • 障害者の立場で言うと…自動車会社は協力的だが公共はやらなかった。JRは文句を言う
    ハイデルベルグ市では障害者が街中を右往左往している
  • 熊本市では今後電停のスロープ化への改良をやる 電停の安全化も改善する
  • ドイツブレーメン市では一挙に60編成400両も導入した訳は?
    地下鉄を検討したが高いのでLRTを採用。 市の補助制度があり、リースにしてからは、よりやり易くなった
  • イギリスは日本の状況に近い。 つまり交通は国でやり、市は金が使えない。独立採算性が基本。 郊外電車が市内へ入りステップが高い LRTもやっと入った
  • 今回の熊本LRTは運輸省が協力的でドイツ規格に対し全面的にOKだった。
  • 日本の路面電車は頻繁運行だが、長編成を一人運用できぬ点が非効率。
  • 運賃のセルフサービスは魅力的だが、JR統計では未回収が2・3割出ている。
    日本の法律も3倍しか取れぬ。経営者としてはペイしないと・・・。
  • ヨーロッパでは経済性に寛容の伝統がある。性善説。 やれば乗降スムース効果絶大だが
  • イギリスには4つのLRTがあるが皆セルフサービス方式である。シェルフィールド市は失敗して旧に戻した。
  • 日本でも××倍払うと契約上は出来る。 払わねと刑法の問題になる。
  • ウィーンでは市営と私営ともで4つあるが、全体では市が運賃を統制してやっている
  • 独デュッセルドルフでは60の事業者があるが、運賃連合を作っている。 副業もしている。
    収入は一旦連合に入り、これを分配している。
  • 日本でやるなら市・県が音頭をとる要あり。 日本では補助金の問題がある。
  • 公がやると改善を怠る欠点があり、私がやると運賃をどんどん上げるか給料を低く抑える。
  • プリペイドカードは障害者には使いにくい
    熊本のLRT導入は障害者と行政の協力でできた成果である
  • 日本人は交通機関と税金にはモラルが低いのではないか
    運賃のごまかしは日本人には武勇伝、イギリス人は犯罪として受け取る。
    こんな国にフリー乗降は疑問
  • 運輸省主催で12月に東京・熊本で国際ワークショップをやる。こんな機会に「より良い街づくり」運動を計りたい
講演・討論ともたいへん熱心だった。車椅子の方が10名最前列で聴き入るのも異彩。右はafter8。
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