路面電車を考える会例会 講演録24

       広島の都心改革戦略
 

  中国地方総合研究センター 地域計画研究部長 佐藤俊雄氏
03.6.9
講演日時:2003年5月21日 6:30p.m.〜8:20p.m.
会場:広島市中区東千田町 広島電鉄株式会社本社


館主前言:
 広島市は人口100万人を越える政令指定都市です。 水に恵まれ美しく機能も整備されていると思いますが、同規模の他都市に比べ都心部への軌道系交通と周辺高速道路の整備の遅れが人の都心集積分散を遅らせているように思われ残念。 今回は市の有力な調査機関にて20余年都市計画に取り組んでいる専門家より、広島市都心をよりよく改善について適切な提言を聴くことが出来ました。 この提言じゃ同様の他都市においても参考になるに違いないと思っています。読んでみてください。


佐藤俊雄氏略歴
1978年 名古屋工業大学大学院
       工学研究科(建築学)修了
1978年 (社)地域問題研究所入所
1978年 (社)中国地方総合調査会
       (現研究センター)入所
現在 (社)中国地方総合研究センター
    地域計画研究部長兼主任研究員
著書:ドイツにおける都市交通と地域計画 
    の新たな潮流(共著)
    広島の都心戦略・交通戦略(共著)
資格:一級建築士、技術士


佐藤氏講演要旨 

    (挿入作図は全部佐藤氏制作)

1.都市構造の変化

 (1)産業を生み出す都心

  • 最近の興味ある傾向だが広島市は都心の従業者数が25,000人増えた。
  • 時代は機械を使って生産性向上を計る時代から知恵を使って向上する時代に変わった
  • では広島市の場合どの産業が増えたのか?
      専門的サービス号や対事業所サービス業が増えた。また都市型IT産業も都心に立地している。

(2)都市の拡散化とその結果もたらされたもの

  • 人口の集中……… 30年間に人口密集地は2.3倍に広がったが、人口密度は0.77倍へと希薄になった
  • 昼間人口は都心に集中している … 1km平方に5万人
  • この10年間は周辺の拠点中心、例えば東広島市などの昼間人口が増えた
  • ということは広島市の現中心部よりも周辺拠点へと中心が拡散して来た
  • 床面積1,000平方m以上の大型店が都心部においては36%つまり1/3にまでウエイトが下がった。
  • このことは都市の崩壊であるし、郊外住居の快適性とどちらを取るかの選択になる
  • 市民は車社会に翻弄されている
  • クルマの速度が歩行者の10倍だとするとクルマの移動距離は歩行者の移動範囲の100倍と言える。
  • こうなると自動車のコントロールが実に重大なことになる

2.都心再構築の方法論

 (1)都心の役割

  1. 都市文化・エンタテイメントの場として・・・
    • 回遊性のある商業・飲食機能、映画館の集積が望まれる
  2. グローバルな経済・文化・情報交流の場が必要である・・・
    • 金融・卸機能、在外公館、 NGO団体、大規模ホテル、会議施設、新聞社・放送局等こそ都心にふさわしい施設である
  3. 新たな産業創造の場として再構築する・・・
    • 対事業所サービス業、都市型IT産業等が必要
       (注)新事業創出にも弁理士,デザイン,会計士などのサービス業の支援が不可欠

  

 (2)都心再構築方法論

  1. 都心計画+交通計画の両者を同時に成立させる
    • 都心の価値を重視する
    • 自動車のコントロールと役割の認識し野放図にクルマ中心にしないこと
    • 自動車と公共交通の関係性を検討し公共交通利用へシフトするよう政策的に誘導する
  2. 広域的な土地利用コントロールを配慮して、商業立地コントロールが必要であるし,実現性も検討する

 

 (3)自動車と公共交通の共存のあり方

   考え方を図解すると・・・
 
  • 広島市の交通問題は公共交通全体を見ると長期的には減少傾向にあることである
 
  • 内容的には人の移動量は落ちていないこと ・・→クルマの使用に比重が変化しているのである
  • ヨーロッパのようにクルマをうまくコントロールする必要がある。

3.都心再構築の提案

 (1)広島で5つの提案

  • ポイント
  1. 「人」があつまる都心づくり・・・・歩行者ゾーンが無ければ人は回遊しない
  2. 都心に人を快適に運ぶ公共交通・・・・LRTが建設期間、」建設費用も安く最適
  3. 通過交通を処理する基盤・・・・広島市では通過交通がデルタ内を迂回できる環状道路建設が緊要

@歩行者のゾーンの提案

●都心の魅力→脇道、裏道
●人と商業を引きつけるインセンティヴが必要

  • この500mスケアというのは500mなら歩いて10分。人の歩いて快適な距離、歩ける距離である。
  • 広島都心の中の棚とは歩行者ゾーンでもあるがクルマも立体駐車場を利用するために共存している。この方式も良い。

 

Aトランジットモールの提案

  • これは広島市相生通りという目抜き道路で現在路面電車と車と歩道が共存している最重要通りである。ここを思い切ってトランジットモールにする案を考えた。
  • 路面電車・LRTは道路中央を走行(現状通り)
  • 道路最北部分を公共交通のバス・タクシーの専用にする
  • マイカー・トラックは閉め出す
  • 道路南面は広く取り緑樹、オープンカフェ、休憩用シェルターを配置する
  • 銀行店舗は減少している。この代わりに専門店を誘致
       館主は特記したい・・・→実現可能! 要は市民にどうやってアピールするかの方法論にあろう

B平和大通りと中央通りに公共交通軸を

  • 今のバスの運行を見るに相生通り1本に集中している。一方500m南に平行している平和大通りにはバス路線が極端に少ない
  • これでは都心の回遊性は出てこない
  • 1道路集中のバス路線を平和大通りにも廻す工夫をする
  • 将来は平和大通りにも軌道系が欲しい
  •  館主の勝手注:軌道系はアストラム地下鉄案と広島LRT研究会のLRT敷設案があるが、市民の使い勝手、建設費、運用費負担、建設期間大差から断然LRTが有利のはず
     

CJRの70km圏域高速化

●人口減少社会における地域
  の活性化
→モビリティ(広域流動)と高める



(交通機関)

  • JR快速便
  • 空港アクセス鉄道
  • 高速バス


(結節点)
  • 交通結節点の改良
    (広島駅、横川駅、西広島駅、
    アストラムとの交差部)
  • フィーダーバス
  • P&R
  • 共通運賃制度
  • ★高速バスの利用が便利でないと都心にクルマ二人が????

D環状道路の提案

都心環状

デルタ環状

都市高速環状

  • 都心を東西の横切る平和大通りを通り抜けのクルマが突ききっている現状では都心の賑わいは来ない

 (3)ドイツ・フランスでの都心空間と交通の事例紹介

 
  • 独シュツットガルトは都市圏人口が250万で広島の1.5倍程度だが、LRT(郊外は地上式)が街を支えている。
  • 都心部の道路交差はアンダパスで通し、人にはエスカレータがある。
  • ストラスブールは50万都市で広島市より小さい都市圏である
  • その市長LRT導入を公約にして当選した。が、その建設期間はわずか5年だった。これが偉い。
  • 広島市では新交通アストラムが出来て8年経つが利用者が最近減っている。何故か?
  • それは当初から市内電車との相互乗り入れがないことと★、結節点がなく独立で運行しているからである。

   
                                    日経地域情報NO414 市川嘉―氏提供

  • 日本の路面電車はけっこう乗車密度が高い
  • 立地が欧州は郊外地が広く有利。どんどん延ばせるので密度は低くなる
  • 速度は郊外地が広いので平均速度は速い
  • 欧州は経費の半分は公が負担している。日本は自立。そういう理由で日本では一定規模以下のLRT化は難しいであろう

 

 (4)札幌市都心交通ビジョン

札幌市による都市交通ビジョン


◆市から市民への提案
◆H15年度に都心交通計画を策定

  • 札幌市はもともと路面電車網という骨格があったので改良したものである
  • 成案は市が市民に募集して作る予定
  • この案の特徴は自動車を規制しながら歩行者空間を造ったことにある

 

 (5)環状道路の効果

  • どうしても環状道路を完成させる必要がある
    1. 通過交通の削減効果が大きい
    2. 都心部の道路空間の再配分が可能
    3. 公共交通の走行環境の改善


質疑

Q1:LRTに関連して日本とヨーロッパの違いは何であろうか? 精神なのか、土地の広さの違いなのか・
A: よーろっぱでは都心の歴史というか都心への価値観が違う。
   本来の都心を大事にし維持していきたいという気持ちの差が現実に現れる

Q2:講演者の案の実現性は? 財政難なので難しい点があるのでは?
A: 金のかからない提案を幾つも出している。 例えば歩行者中心の都心作り。
   要は基本的インフラを立ち上げようということで投資額は比較的小さいはず
   戦略としては中四国の中心都市になる心構えで

Q3:都心に住んで貰う工夫は?
A: 建築基準の容積率のアップを。
   空いたオフイスも利用を考える
   税金で公共マンションを建てる時代ではない