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路面電車を考える会例会 講演録21
路面電車が生きるまち
−今後のLRT導入にあたって−
鉄道研究家 小林 茂氏 |
2002.12.4 |
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講演日時:2002年10月9日 6:30p.m.〜8:30p.m |
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会場:広島市まちづくり市民交流プラザ |
館主前言:
かねてより鉄道再開発、人に優しい交通などのテーマで論文を交通雑誌や著書に書かれている小林茂氏は昨年6月に広島に赴任され、当地での交通課題について地元紙その他に交通論を活発に発言をされています。10月例会は広島市の特色である路面電車・LRTを主テーマにてお話しして頂きました。
小林氏ご自身のコメント
昨今は街づくり運動のシンボルであるかのように 「LRT」がもてはやされているが、実際にはLRTが活かせる街と、LRTに馴染まない街があると考えます。その視点と札仙広福のうち3都市に赴任した経験から、広島の都市交通について提言を行いたいと思います。
小林茂氏略歴
1949年 宮城県生まれ
1973年 旧北海道東北開発公庫入行
1998年 地域プロジェクト推進室長
1999年 日本政策投資銀行政策企画部長
2001年 日本政策投資銀行中国支店長
鉄道研究家。交通関連テーマの著作多数。 |
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小林氏講演要旨
◎ちょっと一言
- 自分はもともとたいへんな鉄道ファンで「鉄道ジャーナル」誌に時折り寄稿しています。ファンというよりもむしろ町歩きが好きでそれが高じて研究をしている次第です。
- 自分は神戸市で高校を卒業し、北海道に憧れて就職しました。
- そういうことで神戸市電、大阪市電は知っているし広島電鉄も知っていました。
(1)東京一極集中は永遠か?
- 明治時代の人口配置
- 江戸時代初期の日本の人口は1500万人だったが江戸末期は3000万人くらいになった。鎖国時代の日本が養える人口はこれくらいのもの。
- 東京一極集中は昔からと思う人が多いが、昭和になって、むしろ戦後に起きた現象である。
- 明治時代の主要都市ランキング
- 下記の表を見てください。どんなに変化したかが感得されます。
- 交通基盤整備が工業立地、人口配置を変える。江戸時代の高速交通は船であった。
- 広島は明治初期までのは全国有数の人口で西日本最大の都会である。
(2)札仙広福をくらべて見よう
◎仙広福は三大都市圏より魅力がある。三大都市圏は過密。
- 123年前の日本は各地の都市が適度の大きさで適度に分散していたのが判る
- 札仙広福のうち札幌は当時は存在しないも同然の都市であった
- 1878年の部の▲は日本海に在る都市であるが、今は20位にも入る都市がない。太平洋岸に比し日本海側都市の凋落が激しい。
◎政令都市をながめる
- 仙台市は路面電車を廃止して地下鉄を作ったが、1日の利用客は20万人の予測に反して13万人の乗客であり、もうそう伸びないだろう。毎年大きな赤字である。LRTがむしろ最適ではないか。 今仙台空港への鉄道を造っているが、これは平坦な地形で17分と短くてよい計画。 山形市からも1時間程度でこられるので期待できる。
- 福岡市は昔は大都市ではなかった。かって九州の最大都市は熊本市。
交易が盛んで昭和15年には九州最大になる。 アジアへのgatewayとなり卸と小売りが多く福岡市への一極集中が起きている。
福岡は北九州も入れて300万都市圏ともいえよう。
- 広島空港への軌道系アクセスは目下の課題。
- 広島市は特異地形で三角州の上。中心エリアが狭い。中心地区に55万人住み、こんな狭いところに集中しているところは他の札、仙、福にないところ
- 歴史的には広島は
- 軍都として西日本を睨む場所として開かれた
- 鉄道が早かった。工業も盛んだった。
- デルタ内には行政・商業・産業の一極集中があったこれは路面電車の有利条件。
◎札・仙・広・福の政令都市への歩みと特色
(3)広島都市圏の特色
- 6本の川で造られた三角州の上に発達した都市
- デルタの中区、東区、西区に55万人(面積116km2、中区15km2に118万人の、密度7,692人。東京都港区は20km2に16万人。密度は8,244人です。 極めて人口稠密な人口配置で、日本でも有数の都会と言えましょう。
- この町は路面電車と相性がよろしい。
- 全国各地で路面電車復活運動が起きている・・問題は採算性と行政に金がないこと
- 自分は6年間足が麻痺して交通弱者の経験があり、このとき路面電車の有利性を感じた。
- 広島の特色は5Bと言われる:
Bridge Bus Bank Baseball Bar
- 広島は地形が路面電に有利
- ○江波地区、宇品地区、宮島線地区とどれも集客に有利な地形である。つまり歩いて乗れる距離にある
○一般論で「鉄道はいまや採算に乗らない」。 インフラが高く収入が少ないのが原因
例外は大都市圏でインフラが作りやすいところのみ
よい条件の都市は「山が迫った海添いで人口が多い都市
札幌−−−小樽
神戸−−−大阪
呉 −−−宮島
- LRTも工事費がかかる 10億から20億円/Km
建設費が20億円/kmとして 収入は5億−−7億/年の売り上げが要る。
ということは売上高7億円のとき 200万円/日/Kmとなり、1万人乗車では200円/Km、3Kmで600円の乗車運賃になる・・・高すぎてこれでは乗らない
- 以上より広島市で新たにLRT事業をするのは困難である。今運営できているのは過去の遺産があるからである。他都市では難しいことである。
- 広島市に1年住んだが、「地下鉄がないので作ろう」などは疑問。採算を考えると広島のように海の中の街に地下鉄工事をすることは困難ではないかと考える。
(4)広島と強みと弱み
- 都市交通基盤充実
- 広島都市圏は交通の見本市で、新幹線、在来線、LRT、から新交通アストラムラインと懸垂式スカイレールという二つの新交通を持つ。
- 道路も高速道のネットを近県に持ち、日本最大級のバスターミナルがある。
- 空港・航空機は同一都市圏に国際空港とコミュータ空港の二つがあるのは札幌と広島くらい。
- 海・川・船もフェリーや高速船が縦横に出ている。国際フェリーから川のクルーズ船までそろっている。
- 広島都市圏にはこれだけ揃っている。これで不満があるのかという感じです。
- 産業集積
- 自動車産業、航空機産業、造船業、鉄道車両工業がすべて立地している県も珍しい。
- 産業集積が多い。産業は2兆円/年で主は工業。札幌は7000億/年で主は食品
- 広島市は街歩きが楽しい。
- 広島からは多くの人材が輩出している
- 多くの人材が東京・大阪で働き情報交流が盛ん。 県人会の会合も多い。新潟県もそうだが。
- オンリーワン企業
- 針とかバレーボールとかユニークな産業が多い。オンリーワン、トップシェア産業も多い。
- 大企業依存、成熟化
- サービス業未熟
- 弱みはサービス業である。原因は製造業が強いため企業内で充足してしまう。でも今後は大企業もサービス業に転移してゆくだろう。
- 観光後進県
- 観光後進県である。理由は工業が強かったため。
- 広島には宮島、原爆ドームという世界遺産が二つもあるが来広しても通過してしまう。
- 広島エリア宿泊数は350万人。これは函館市並みで札幌の1000万人に遙かに及んでいない
- 広島の路面電車はまちづくりの一部・キーパーツです。
- 路面電車は「判る」「迷うことがない」「JR駅に確実に戻れる」という観光客に安心感を与える。
- 路面電車を「観光客が見る、食べる」ことに役立てよう。
- 広島市は水と緑の景観が優れ他都市にはない特長を持つ。
- 広島で気がつくことは「街歩きマップ」が広島に無い。 肝心のデルタの真ん中の地図がつまらない。これには宮島もアストラムも記載がない。言わないとマップを呉れない。広電の路線マップは良いが観光案内所では配られていない。
近所では高知、倉敷、尾道、萩、岩国…どこもよい。 小樽、札幌ときたらふんだんにマップを呉れる。
結論。みんなでまちづくり
- 友達を呼ぼう。広島の魅力を再発見して人を呼ぼう。
- 広島の利便性を活かそう。広島の技術を活かそう
- 広島の文化を活かそう。
- 水と緑の景観を守ろう
- 高次都市集積機能を活かそう
質疑
Q1:LRTとはなにか?
A:都市システムだ。路面電車も改良したらLRTになりうる。つまりLRT的利便性を付加すればよい。
・新路線の可能性もある。が、これは行政がやるべき。 ex.デルタ内の乗車賃はタダにするとか。
・札幌、京都は路面電車に向かない。碁盤道路は信号待ちがやたらに発生するからである。
Q2:LRTは日本では敷設は不可能か?
A: 借金前提では不可能。補助が出れば別だが。
Q3:広電が全部低床車に切り替えたらLRTになるか?
A: なると思う。乗り換えを考えるとスクランブル交差点にするべき。ただし車との関連があるからシミュレーションを先にする必要あり。