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路面電車を考える会例会 講演録18
交通システムのIT革命
−慶応義塾大学大学院 川嶋研究室 川嶋弘尚教授および院生 |
02.3.9 |
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講演日時:2002年2月18日 6:30p.m.〜8:30p.m |
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場所:広島県総合体育館会議室 |
館主前言:
広島市は路面電車のメッカと言われている。ということは都心では路面電車4線の運行が輻輳し、これが街の交通渋滞の一因となり、同じく電車の運行増を困難にしているとも言える。 勿論いままでにも管理責任のある広島市や国土交通省も積極的に道路の整備改造や、地下街の建設による横断歩道の地下への移動等数々の施策を実施してきた。 しかし現況を見るに工夫も残り少ないかと思われよう。 この時点にて
IT を使用して信号制御をダイナミックにコントロールすれば更に路面電車および車の待ち時間の減少への突破口となる技術の紹介があった。
広島市をモデルにした調査と提案の様子を主体にITによる交通管制の第一線の技術について,今回慶応義塾大学理工学部川嶋教授および研究室の大学院生諸氏によりその研究発表の機会を得た。
広島市における可能性について実証の細部はこれからである。今後広島市側関係者にて協力できるものがあればできるだけ実行し、その結果の享受と共に、主要な情報を他都市に対しても広く公知していくべきであろう。 |
川嶋弘尚先生略歴:
1968年 慶應義塾大学 工学部管理工学科卒
1973年 〃大学 同科博士課程修了
1974年 工学博士(慶應義塾大学)
1972年 慶應義塾大学 助手 (工学部管理工学科)
1987年 〃大学 助教授 (理工学部管理工学科)
1992年 〃大学 教授 ( 〃 ) |
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講演要旨
広島市を対象にした経緯
- 教室で市内交通機関を対象とした都市選択の際に院生から、広島市は車交通に加え路面電車と川の交通があり、モデル対象として適しているのではないかの意見が出て選択をした。
- 皆さん、話ではIT革命と聞いても体で感じますか? 判りにくいのではないかと思う。
ITは進歩しているから、この成果を使って交通システムへ使うことを考えます。
- ITの優先信号はできるのだが、実現していないから受ける側に実感されないだけ。
ITSは大都市とは限らない。 例えば豊田市、岡山市、高知市等が考えられる。 ニーズのあるところが出て欲しい。
共通化標準化の大切さ
- ここは、各都市の特性などを考慮する必要があるが、まずは全都市に必要な基本的な、共通の枠組を作る事が先決であり、大事であると言う事です。例えば広島だったら川が多いから、橋について考えるとか札幌だったら寒いので防寒インフラの整備を考えるとかではなく、まずは全体の都市に必要な物は何かと言う事を考える事を優先させると言う事です。
- 現在国際的枠組みが良いのが出来ており、今自分が公でやっていることは国際的枠組み作りへの参加と日本での実行活動です。日本では実例が無いです。
- これらを考える上でIT技術を、この様な例に活用してみてはどうだろうか。(まだ まだ実施するには他の要素もあるので今回はその1例の紹介だけですのでけっしてこれだけでは満足いきません。)
- 国際的にも標準を使用する傾向にある (ISO/TC204)
これは「これに合わないものは買わない」ということがだいじです
- TCIP等の情報源
- アメリカ TCIP: http://www.tcip.org/
- 欧州 トランスモデル http://www.transmodel.org/
- 地方で実施するときに参考になるでしょう
- 公共交通の枠組みはこんな範囲を含んでいます
- この図を見ると言葉の概念と整理が出来るでしょう。
- 繰り返しますが、私としては世界の行動をお伝えしたい。
2.路面電車優先信号制御のシミュレーション
ー広島市紙屋町付近を例として−
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慶応義塾大学大学院理工学研究科川嶋研究室 渡辺
和紀、福囿(ふくぞの)貴嗣 両氏 ・ |
広島市の中心紙屋町を路面電車優先信号モデルに選んだ
- このモデルに使用したのはドイツ製の「交通シミュレータVISSIM3.5」というものである。
このシミュレータは車両を1秒単位で制御できる。
- モデルは広島市中心部の鯉城通りを選んだ
- 広島市の紙屋町が一番のくるま、路面電車等で満杯状態の場所である
- この場所をコンピュータで解析し問題発見に努めた。
- 既存のインフラ、例えば信号機を活用して提案してみたい
- 広島市内のモデルを構築し、路面電車と車を走らせた所、実際は下図のように360秒だったのがシミュレーションでは358秒と非常に近い値になり信頼性が高かった。
(信号などにも考慮しています)
電車優先信号方式と電車準優先信号方式
- 路面電車優先信号には「路面電車進行方向の信号機が赤の時は路面電車が通過するまで赤に替える電車優先信号」と、「青信号の時電車を通過させるために15秒間だけ青信号を延長する電車準優先信号」という概念がある。更に急行路面電車支援信号という方式も併せ研究した。
- 信号機の手前50mで感知する信号機を置き、電車到着を感知すると青信号を15秒延長する電車準優先信号の効果を見ると、路面電車の通過時間が短縮されるのはもちろんだが、他の車への影響が少ない点に特長が見える。
- 同じ信号機でも路面電車到着を感知したとたんに信号機を青に変え電車が通過しきるまで青のままでいる電車優先信号方式は、下図で見られる通り電車への短縮効果が大きいことは勿論であるが、一方ではくるまを待たせる影響があまりにも大きいので採用は否定的にならざるを得なかった。
- この差は、優先信号方式の場合は信号のサイクルが電車が来る来ないで大幅に変わり過ぎることに原因がある。
- 優先信号と準優先信号との現状に対する効果のシミュレーションの数値結果は下記二図に要約される。
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路面電車準優先にした場合、電車待ち時間が463秒から441秒に下がり、同方向の車も大幅に下がるし、
南北方向への影響も115秒が118秒へと影響が小。
路面電車優先方式にした場合、電車は585秒から269秒へと恩典が大だが、車の南北方向のへの影響が
115秒から190秒へと大幅に増えてしまう。
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優先信号は準優先信号に比し南北方向への影響が顕著となることが判る。 |
- NOXでみる導入効果
- 環境問題も大事。NOX排出量を計算すると準優先信号方式が7%の改善効果が見込めて良い結果。
- 安全性で見る導入効果
- 優先信号方式ではまたされる側に緊張感というかイライラが起こり、やはり問題が起きるであろう。
急行電車モデル
- 紙屋町〜八丁堀間には電停が数カ所ある。この間にクロスを数カ所入れれば、鈍行電車を電停に待たせておいて渡り線を通りながら急行電車も通すことが出来る理屈になる。 そのモデルをシミュレーションしてみた。
- その結果は下図のようにたいへん興味深いものとなった
- 理論的には成立しても、何しろ短い区間で車の多い場所であるので果たしてうまく運行できるか安全性に問題があろう。
問題点を三つ挙げると
- データの質・量が不足
- ・電車利用者への考慮が不十分(ある程度は計算したのですが)
- ・歩行者への分析が不足(今は横断歩道が無いですが..)
- ・自動車の行動分析が不足
- ・実験時間が1時間のみ(データ量に関して)
- 歩行者、くるまへの分析が不足
- コストの評価がまだ無い
今後の展望
- 広島市八丁堀〜紙屋町間に優先信号方式を持ち込むに付いてはまだ解析していない3点がある。
- この3点をクリアしてから実際に提案し実行する運びになるであろう
3.デマンドバスのシミュレーション
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慶応義塾大学大学院理工学研究科川嶋研究室 平島
浩一郎 氏 |
- デマンドバスを決められた一定経路を走行するケースと、停留所からのIT使用呼び出しに応じてバスの走行ルートを最短になるよう瞬時に計算して変更する方式における効果のシミュレーション。
- 広電バス25,26系統を利用してシミュレーションしたが、思わしい効果が算出されなかった。効果的なルートやケースを模索する必要がある。
- (館主注) 本件は報告容量の関係から残念ながらホームページへの詳細UPを割愛させて頂きました。
4.TCIPについて ・
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慶応義塾大学大学院理工学研究科川嶋研究室 川野辺
裕道、矢川 純子、森住 由起子 各氏 |
- TCIPとは公共交通のインタフェース・プロトコルである
- これは互いに独立した公共交通の構成要素や組織の間でデータを交換することを可能にするインタフェース構造を提供することを目的とする標準化作業である
- 我が国の都市部において路線バスの運行管理・情報提供において利用可能性がある
- (館主注) 本件は報告容量の関係から残念ながらホームページへの詳細UPを割愛させて頂きました。
5.マクロシミュレーション(事例報告)
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慶応義塾大学大学院理工学研究科川嶋研究室 松本
修一 氏 |
- 相模原市において将来高速道路を敷設した場合に車の流れがどのようになるかを想定したマクロシミュレーション事例。
- マクロシミュレータにて計算。 (ソフト名はVISUM7とDYNEMOを使用)
- 現在の道路の渋滞状況と将来道路を建設した場合とについて、渋滞がどのように変化するかの予測が道路図を通じてダイナミックに表出でき、視覚に訴えながら比較・検討・評価が出来る
- (館主注) 本件は報告容量の関係から残念ながらホームページへの詳細UPを割愛させて頂きました。
Q1:路面電車の詰まり具合も再生できますか?
A:シミュレータの改善の余地はあります
Q2:シミュレータにおいて路面電車の優先順序は付けましたか?
A:原爆ドーム前から八丁堀方面へを第1位に、八丁堀から原爆ドーム前方向を第2位に、南北方向を第3位にしました
Q3累積交通量のデータは入っていますか?
A:1時間だけで累積時間までは入っていません。
このシミュレータは数週間で作り上げたものです。
今回の使用データにはホームページ「路面電車を考える館」におけるアンケート事例と「バスの超マップ」の路線図を使用しています
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忙しく設営と打ち合わせを行う慶應義塾大メンバー |
館主感想: わざわざ広島市の路面電車事例を使用されてのシミュレーション事例にであったが、パソコンとプロジェクターを駆使して、路面電車とバス・車がそれぞれ1台ずつダイナミックに動くのを目の当たりにして、まさに目から鱗であった。 21世紀の交通計画立案はかくあるべしという思いです。 動きを交えて説明すると納得の仕方に深いものが与えられるようです。
路面電車の優先信号は外国で実行していることはよく知られているが、これを単純に電車が渡りきるまで自動的に待たす優先信号方式と、秒数を数えて待たせる準優先信号方式方式に分けて考えると、結果がすっかり違ってくるという重大なことを教わったのが大きな収穫でした。
また、市内の最大交通量区間を選んで急行電車を走らせてみたらという発想には驚倒させられました。 すぐに「現実は」と考えるのではなく、かかる柔軟な思考展開と提示とを今後とも期待したいものです。ここからブレークスルーが始まります。
川嶋教授とその師弟グループが来広し、プレゼンテーションし、翌日は他都市にて研究発表とか・・・。その忙しさに圧倒されてろくにお礼も申せなかったのは心残りでした。 会場には予想外に多くの参加者が詰めかけたため立ち見まで出てしまい、来場者にも申し訳ありませんでした。 省みると、ITの交通活用にかくも多くの方が関心を持っているという証左でもありましょう。
先生と院生の方々に厚く感謝の言葉を申し上げます。
最後に。広島都市圏交通関係者はこの準優先信号方式の提案に早速にも検討を始めて欲しいと希望します。 |