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路面電車を考える会例会 講演録17
過疎バス 知恵くらべ ・
−落日の過疎バスにも打ち手はあるはず−
広島文教女子大学 教授 菅井直也氏 |
01.11.27 |
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講演日時:2001年11月14日 6:30p.m.〜8:30p.m. |
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場所:広島市鷹野橋 広島市女性教育センター (Web) |
館主前言:
自家用車の普及に比例して路線バスの減少は著しい。特に中山間地域・過疎地でのバス路線の減少が年々増え続け、中国地方では1996年に4156路線有ったものが2000年の5年間で3709路線へと11%減少している。 更に来年2月には道路運送法改正施行による規制緩和があり、これに対応して各地バス会社はますます過疎地バス路線の廃止が進むと見られている。
過疎地にとって路線バスの廃止とは、車を持たぬ、運転できぬ住民にとっては生存権の問題。そこで各自治体は代替バス運行で対応しているようだが、この運営費負担に悲鳴を上げている。
では打ち手は無いのであろうか? 長年過疎バスの実態を研究してきた菅井先生は「もっと知恵を出せば打ち手は残っているはず」と数々の事例を挙げて例証された。 ではその打ち手には何があるのか・・・? ヒントが沢山あります。 とくとご覧下さい。
菅井直也先生略歴:
1955年 水戸生まれ
1979年 広島大学教育学部卒業
1985年 広島大学大学院教育学博士終了
1985年 広島大学教育学部助手
1987年 鈴峯女子短期大学講師、助教授
1999年 広島文教女子大学 人間福祉学科教授 地域福祉、福祉教育担当 |
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菅井直也先生講演要旨
教育学・社会福祉学とバスとの関連
- バスの問題は高校生とお年寄りとの問題です。教育を受ける生徒にとって大いに影響があります。
- バスは最近話題の医療と介護の同じレベルの社会問題です。
バスを巡る歴史
- バスは昭和42年をピークとして後は低下の歴史。 今はピークの平均半数以下でしょう。どこまで落ちるのか判らないのが現実。
- バス乗車数は人口減とは連動しない。むしろ自家用車との関係と考えるべき。
- 小学生は学校が歩ける範囲にある。高校生は学校が遠くなるので歩けない。運転免許は18歳以上。そこで自転車かバイクで、それから「高校生を運ぶためのバス」となった。 つまり「自家用車が運転できない人がバス」になった。
- 昔、広島市の横川から郊外の可部間に個人営業バスが走ったがこれは1台で営業したという。のち2台、3台と増え会社となり、更には県内各地で統合というまで進んだ。
- ところが今では大きな会社ではやっていけない。
- そこで身近なところで運営できないか?となり分社化がはやっている。昔は許認可の関係でできなかったが。例えば県北吉田町関連で広島電鉄は事業所と車体をそっくり備北交通に貸すことが起きた。つまり経営が傾きかかった頃に自由化されたという訳です。
- 今のバス会社は運賃収入では賄えない状況です。 経常黒字は実質無いと言っていい状態。これでは赤字路線を止めざるを得ない。 そうはいかぬ時に自治体にゆだねることになる。
- 一方では利便性・福祉を助けるバス運営が現れ始めた。
バスの種類はいろいろある
- 過疎地にはどんなバスが走っているか?
- 路線バス (4条バス、21条バス、70条バスがある)
- スクールバス(文部科学省が車両購入費補助金を出す)…ここがポイント。マイクロバスで購入補助600万円
- 通院バス(厚生労働省所管車両購入補助金)…これは患者輸送車です
- 福祉バス…これは身障者用に役場が出したり、最近はデイケア用に増えている。
- 送迎バス…企業・病院・学校等で企業とは農村工場用です。
- これらのバスを見るとスクールバス、送迎バスは朝夕同一時間帯に走っている。一方の通院バスと福祉バスとは朝夕以外の時間帯に走っている。ここに注目。
- 運行時刻はほぼ同一時刻なのに同一自治体による維持経費負担がなされている点も注意
- 住民にとってバスの維持が必要である条件で、通常の路線バスを維持できなくなったとき、上記のそれ以外のバスの維持をどのように効率化するか工夫することで道が開ける。
バス運行維持の諸方式の詳細
これら方式別工夫の余地を制度別に詳細を記すと
4条バス
- 認可を受けたバス会社に対し、自治体がそのバスのキップを一般会計で買って支える。
- 高齢者パスの制度も西宮市長のアイデアで始まった
- それでも赤字が出たらバスを廃止されてしまう。すると次の21条バスになる。
21条バス
- 自治体がバスを借りて運営する。根拠は21条の「困難なとき」には利用を許可するとあるのを援用する。貸切事業者に運営を任す
- 実際は4条バスの会社が貸切の認可を受ける。例は備北交通、芸陽バス。
- この利点はいつでも貸切で仕事が出来ること。
- バス会社以外にタクシーや個人1人のもある。
- 広島県には21条で60km以上走るのもある
- 複数の町村を走るのも実在する
- 今日は4条方式の利用維持が精一杯のよう。
- これで赤字が大きくなり決算とか議会等で問題になると、次に・・・
80条バス
- 役場のマイクロバスで運賃をとって住民を運ぶ
- この難点は運転手が要ること。 自前が前提でこれがたいへん。
- 島根県の実例データ参照 (掲載省略)
- 島根県木次町の事例紹介
- 一畑バスが平成10年に廃止を決めた
- 80条でやることになり「自治法に基づく公共設備」と定義し、議会の承認を得た
- 隣の三刀屋町も入れた
- 次にJRも止めたいと言ってきたので、高校路線がありこの路線も入れた
- 大東町の病院からもお願いが来た
- 結局9路線、バス停100カ所を運営している
- 問題は経営で投資が3億円、収入が6000万円/年という
- 岐阜県山岡町の事例紹介
- ここは周辺の町にはバスがあるがこの町だけバスがなくなった
- これでは高校生は通学できない
- 役場にマイクロバスが2台有った
- 旧役場の運転手等7人をボランティアで集めた。 ここは陶土の産地なので二種大型免許者が多いのだ
- 7人が交替で週に2回づつ出勤すれば賄える
- これで役場中心に3方向、10往復、20kmを走っている
- 実際に乗せてもらったが、車内に「山岡町高校生父母の会:乗ったら挨拶しよう」の貼り紙があった。どこに道徳教育をするバスがあるだろうか?
- この運営費は:全部で1300万円/年+燃料150万円/年ということであった
- 決算をしてみたら コスト=廃止した助役の人件費と同額であった。
(館主感想:まるでNHKの「プロジェクトX」ですね)
- 他に小学校、中学校にはスクールバスがある。これは会社委託で年1450万円
保育園にもスクールバスがある。
企業の送迎バスを利用する方式
- 送迎バスを廃止して路線バス利用にし、定期運賃を送迎バスの受託代金相当額とする方式
- スクールバスは朝夕のみ運行だ。路線バスがなくなったら他のものを利用できぬかの発想
- 国内某町の事例
- 企業の送迎バスを吸収してこれを路線バスに乗って貰う。
- 通勤バス代が送迎バスコストと同額にしたのでOKとなった
各種バスを同一事業者へ21条委託する方式
- 運行業務の一元化
- 今の縦割り管理を止めればこの方式が使える
路線バスの間合い活用による福祉バスの運行
- 路線外の高齢者通院福祉バスを路線事業者に委託して運行
- 島根県加茂町では路線車の間合い活用で毎週1回で5地区輪番運行している
機能統合による効率化方式
- スクールバスを廃止して貸切代替バスの定期代負担とする
- 自治体:車両・運転者に関わる経費が不用になる
事業者:便数が増えれば貸切運賃増収になる
シビルミニマムの設定による責任分担方式
- (例)1日5便の維持と発展の責任主体:自治体による補助
- 5便を越える運行は企業による営業として企業努力による増便を、さもなくば減便。
- これは企業に安心感を与える利点有り
基本料金の設定による住民負担方式
- (例)地区全所帯が毎月X円を負担(回数券の購入)
高校生はバス通学を前提として定期券を購入(年間Y円)
それでも生じる赤字を自治体が助成(年間Z円)
- 町内会で維持するとか新たにバス税が課せられるようなもの。
この場合、最後の赤字が住民負担になる→各戸がいくらまで払えるか?
- マンションのエレベータ代負担のようなもの
自治会による自主運行方式
- (例)季節運行
自治会が貸切バス(21条バス)を運行
1所帯X円の住民負担
運賃収入は乗務員→点呼執行者→自治会口座へ入る
貸切経費=運賃収入+補助金(市)+住民負担金
- これは悲惨で最期のケース
- 実例は秋田県だったか? 例えば積雪地で峠が越えられない。で1年間は走らせられないケース。
- 天気と収入を見ながらいつまで走るか考える。これは究極、言い換えれば最先端のケースとも言える。
バス運転を副業としてやる
- 本業は農業。出稼ぎで免許を取ったからやる。例:湯原バス
住民が当番制で運転とか管理業務をする
NPO法人を設立
よく言われる乗車定数とは?
- 平均乗車定数=年間運賃収入/大人1人を1km運ぶ運賃×年間実走行キロ
- 5人未満になると経営的にダメになる そこで→21条とか80条に移る
- 定数5〜15=2種 ・・・・→再建計画と期間補助になる
結論
- 今後はバスとタクシーの差が無くなる
- 国民は自家用車の味を知ってしまった
- 小型化が流れ …平均乗車率は5以下が前提で考える
- 今後は多目的バスが考えられる
館主感想:
会の性格上どうしても軌道交通に目が行き易いが、過疎地バスの問題は新聞等で目にするだけで実態は余り知りませんでした。 大変な事情にあることもひしひし判ったが、一方人々の工夫の力にも感心してしまった。
当会の世話人でもある菅井さんは過疎地バスの実態と対応研究で長年日本のアチコチに出かけ、いろいろの工夫に突き当たるらしい。その中には「多目的ならバスを役場の備品と考え維持費を出そう」とか「副業をじゃんじゃやって経費を出そう」等いろいろ案があるらしい。氏は過疎地自治体はまだまだ他所の工夫を知らぬので、この知恵の数々をこの際頒布したいとの講演OKでありであり、同感しました。 氏が言いたいのは「公共で車を運ぶには今の縦割りを廃し、横の運行の観察利用に有る」ということらしい。
私の意見ですが、ヨーロッパは交通=足は国民の基本権利として公からの補助が当たり前が前提であるが、日本ではあくまで個人の責任になっていることに根本的欠陥があると考える。 上記の工夫はそのもがきとも言え悲哀。この是正こそ日本の21世紀の課題でしょう。