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路面電車を考える会例会 講演録13
「 アルナから見た路面電車」 .
アルナ工機株式会社 車両事業部付部長(LRT担当) 遠山正一
〃 〃 車両事業部 設計課長 田島辰哉 |
01.3.24 |
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講演日時:2001年3月14日 6:30p.m〜8:30p.m |
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場所:広島市鷹野橋 広島市婦人教育会館 |
館主前言:
「路面電車を考える会」の行事は講演会がたいへん多い。8年間に44回を数えている。多くは都市交通論諸相の講演であってあって、路面電車メーカーからの講演会を行っていなかったことに今更気が付いた次第。 そこで現在日本を代表する路面電車メーカーであるアルナ工機さんにお願いして、メーカから見た路面電車の傾向、特にGreen
Mover の輸入と日本仕様化等の業務を通じて得られたLRT論、更には今後の国産LRV施策についての考え方を伺うことができた。 アルナ工機社より役割の違う2人の講師を迎えて十分なお話を受けることができた。これも珍しいケースであったが、ご配慮に感謝申し上げたい。
遠山正一氏略歴:
1945年 京都市生まれ
1969年 ナニワ工機入社
車両関係、輸送機用品関係営業
を歴任
1992年 現事業部LRT担当
以来現職 |
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田島辰哉氏略歴:
1964年 神戸市生まれ
1998年 アルナ工機入社
1999年 車両事業部設計課長
以来現職 |
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1.遠山正一氏講演要旨
ナニワ工機とアルナ工機
- 京都市出身ですから子供の時から目の前を路面電車が走っていた。通学にも利用し思い出が深い。
- 1992年、営業で路面電車を担当するようになり広島市に来るようになった。その時対面したのが広電の旧京都市電で、「金閣寺」「銀閣寺」「祇園」等のプレートを付けて走っていた。以来広島出張が楽しみになった。
- 当社の開業は戦後すぐの1947年。阪急の100%出資で、阪急電鉄の車両の戦後復興を目的に設立された。
- 実は、この会社は満州鉄道の設計、例えばアジア号の空調を作ったとか、その人が中心となって作った会社なのだ。
- 当時はナニワ工機と称していたが、これは工場所在地が尼崎市東難波町(ヒガシナニワ)にできたから。当時はカタカナ3字の社名は珍しがられた。
- ナニワ工機はその後アルミサッシュの製造に進出したが、ナニワとはローカルな名称だということで1970年にアルミニウムのナニワということでアルナ工機と社名変更を行った。
アルナの路面電車製造の歴史
- 車両事業であるが、鉄道とくに路面電車の新造は650両に達し、これは国内路面電車のシェアの80%を占めている。
- 路面電車の歴史であるが、1950年、初めて京都市電856号を作ったのが第1号で、全部で5両製造した。これは当時他社が手を出さなかったから受注できたので、幸運な出発であった。
- その後はマイカー時代になり、路面電車を廃止する都市が続出。 京都の場合、1970年に路面電車軌道へ車の乗り入れを許したのが致命傷で、1978年には全廃されてしまった。
- 1968年から1976年にかけて新造路面電車が1両も無かった時代があり、当時製造を止める話もあったが耐えた。
- 1977年には東京都交通局から車両更新7000型31両を受注し、これが路面電車車両近代化のスタートとなった。当社デザインの、1枚窓、方向幕内蔵方式が受け、これがアルナの基本デザインになっている。1980年に日本船舶振興協会の助成で「軽快電車」の新造車が広島電鉄と長崎電軌に入った。 その後引き続き広島、長崎、札幌等々都市のニーズに合わせた電車の新造が続いている。
低床車開発と製造の歴史
- 1992年に仏グルノーブル市超低床車の説明があった。そこでアルナ、住友金属、三菱電機3社で低床車国産化の検討を始めた。
- 1992年、AEG(後のアドトランツ)に低床車の製造協力を頼まれたが、実現には至らなかった。
- その後広電3900形製造時に真ん中部分を下げる部分低床車を提案したが不採用であった。
- 次に床面高さを若干下げ、ホーム高さも上げることで乗降しやすい車両(ローステップ車)の研究を続け、これが国産低床車開発のベースになっている。
- 1996年シーメンスが来社。低床車製造の協力依頼があったが、その時広島電鉄3950を製作中で、これを見てすっかり信用され、一緒にやりたいとの申し出に繋がった。
コンビーノとアドトランツ
- 1996年、広島電鉄が低床車を検討中とのことでシーメンスがコンビーノの提案に見えた。
- そこでコンビーノとアドトランツの乗り比べを実施し、当社としてはコンビーノを推薦した。そのときの理由は
- 世界最新作である
- 100%低床車
- 走行性能、特に曲線通過特性の良さ
- 通路が広い
- ということで広島電鉄にはコンビーノ5連接車を提案した。
- 1998年2月 広島電鉄はコンビーノ採用を決定し、取引実績から「コンビーノ+アルナ」となった。
コンビーノ導入を巡るあれこれ
- 広電から「オリジナルデザインは硬いから困る。もっと柔らかに」とシーメンスに要求したら、前面デザイン変更はすんなりOKだった。
- 「パンタを二つ」の要求は、“二つは不要”として拒否され、了承まで一ヶ月もかかった。
- 「吊り輪」要求は、“理解できない”ということでアルナ手配となった。
- 第1編成5001空輸はご存じだが、その後の車両はデュッセルドルフから尼崎まで船でジャスト一ヶ月かけて運んでくる。
- 今月既に5005,5006を搬入。3/16に5007を広電に回送予定。
日本各地でのLRT導入の動き
- 岡山市では「LRTで街づくり」の観点から導入運動が進んでいる。
- 京都市では1999年に今出川通りに路面電車をと、商店街と市民とで今電会を作り、街の活性化を目的にLRT敷設の検討が進んでいる。これは白梅町嵐山電車から出町柳叡山電車まで全長36kmが繋がるという案である。本年2/27に京都市に提案書を提出をした。目標は5年以内に実現させたいのだが、京都は道路が狭いだけに問題も多い。
- 兵庫県にはLRT復活の構想がある。 その中に、尼崎市は東西交通はあるが南北交通がない。そこで南北にLRTをということで検討中。これで1日5〜6万人を運ぶ計画
- 京都には観光名所をゆっくり回れる路面電車がよいという市民意見もある。また、膝と膝が触れ合うようなコミュニケーションもはかれるかもしえない。
2.田島辰哉設計課長の講演要旨
なぜ国産化低床車が必要か
- ご乗客にとっては国産である必要はないかも知れない。
- 鉄道事業者さんにとっては、日本とドイツとのメンテの仕方、部品入手の問題、コミュニケーションの差が問題になる場合もあると思う
- メーカーとしてはGreen Mover方式の生産だけでは将来はないとの認識
- 日本は低床技術についてヨーロッパに20年遅れていると思う
- 当社も台車開発を検討した。 が、開発費が約5億円かかり、マーケットの大きさから引き合わないと判断した。
ちなみにGreen Mover の原型コンビーノは数百両の受注である。
コンビーノの評価
- 技術的によく考えられている
- 7車体、5車体、3車体とモジュール化されている。これはコストダウンできるということである。
- プレハブのような構造になっている
- 技術移転は技術料が大きいのでこれの国産化はムリである
低床車用台車の開発をめぐって
- 国産の低床台車を組合を作って開発しようという動きがある。当社も参加する。
- 車内での車椅子移動のためには800mm以上の巾をクリヤする必要がある。
- 現在国内に走っている低床車は標準軌なのでこの通路巾を確保できている。これを狭軌で実現するのが目標。
- 狭軌では車輪と車輪の間が990mm程度しかなく既存の概念ではクリアできないであろう高いハードルである。
- ちなみにシーメンスは1mゲージのものも作っている。これで800mm巾の通路を確保できている。
- そういうことで、我々がクリヤするのは2.3年はかかりそう。ということは実物が現れるには3.4年先か。
- LRVは車両コストだけが問題なのではない。
- 既存地上設備、信号、電停、車庫、検査設備の改善を要す。
- 更に、場合によっては車掌の人件費もUPするので、ワンマン対応可能なものにしたい。
- 長崎の1800型では電停の高さの方を全部高くし、乗降口段差を低くする工夫をした。
- 各地で行われている「部品流用で車体新造」という現実と「新造LRV導入」とでは差が大きい
リトルダンサープロジェクト
- 当社では「広電向けローステップ車提案」の流れを受けて、2年前からリトルダンサーと名付ける開発研究を継続している。現物はまだない。
- リトルダンサーとは小さな踊り子のイメージだけでなく、“小さな段差”つまり“低床車”の意を含んだ駄洒落である。
- 車両形式にはいろいろの形式が考えられる
- 台車を両端に寄せるS型
- これは旧品機器の流用が可だが、カーブの曲がりでボディが内側にせり出してくる。このため、線路条件が合うことが必要になる。
- 首折れ型のA3型
- カーブの問題もOK。機器配置が難かしい。旧品流用は不可。
- 長編成のL型
- いわゆるLRVはこのようなサイズで言われることが多いようだが。
- S型の拡張版である。機器流用の可能性あり。
これらをデザイン図でなく写真で早いとこカタログに掲載したい。
- アルナには路面電車のノウハウの蓄積が多い。これをもとにぜひ日本の風土に合った低床車を作り上げたい。
質疑
Q:国産は外国特許を避けるためか?
A:シーメンス社にボディーの国産化をしたいと申し出ている。
Q:アドトランツとコンビーノの比較をすると?
A:車内の広さ …コンビーノが+
電気品のメンテナンスが進んでいる …コンビーノ+
実績が長い …アドトランツが+
乗り心地 …両者は±0
Q:Green Mover は空調の機器が弱い。また天井の蛍光灯も暗いと思う
A:シーメンスというかヨーロッパの考えでは、「風を直接お客に当ててはいけない」という思想がある。日本では「風が直接当たっているから涼しい」という考え方がある。その差だ。
また、照明については、眼の色が薄い故か、「ドイツではあの明るさがちょうど良いのだ」との考え方である。
ついでだが、座布団も薄いけど、こんどの5005号車から厚くなった。
Q:リトルダンサーの見通しは
A:3方式とも技術的に可能である。どこかが採用してくれれば輸入車よりは安くなる。
小車輪径になるほど、車輪に負担がかかる。また、ポイントの渡りにも影響がある。
リトルダンサーは車輪径を66cmで設計し、これにて乗車位置高さ30cmを確保している。