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路面電車を考える会例会 講演録12
[都市交通における路面電車への期待]
国土交通省中国運輸局地域交通企画課 山下雄史 |
2001.3.8 |
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講演日時:2001.2.21 6:30〜8:30 |
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場所:広島市鷹野橋 広島市婦人教育会館 |
館主前言:
路面電車は申すまでもなく軌道系の公共交通機関で、監督官庁はかっては運輸省でしたが、いまは国土交通省になったが、密接な監督下にあって運用されています。 つい数年前までは、路面電車はどちらかというと運輸・建設両省とも関心が薄く先行き不安の時代もありました。しかしここ数年前より、路面電車とくにLRTがバリアフリー性と無公害性の観点より見直されてきて、21世紀はLRTの時代とまで言われるようになりました。 また監督官庁の運輸・建設省が本年より国土交通省として一本化されたことも、その接点にあるLRTにとっては幸いでした。でも、他交通機関との共存問題や関連予算の実計上額等々まだまだ安心できない、スタート点に立っただけの感もあります。 このだいじな時期に関連深い運輸局専門家から、大所に立っての展望を話していただけたのはたいへんタイムリーであったと考えています。
特記したいのは、講師が本会のために広範な関連参考資料を編集し、出席者に提供してくださったことです。おかげで出席者より、「これは研究に役立つ」と好評でした。ガラス上を借りて感謝の意を表します。m(_)m
講演者略歴:
1971年 神戸市生まれ
1994年 京都大学経済学部卒業
1994年 運輸省鉄道局入省
1996年 運輸省海上技術安全局船員部
1998年 運輸省航空局監理部
1999年 中国運輸局企画部 |
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講演要旨
はじめに
- 1999年に広島に来ました。 かねて「広島には路面電車があると聞いてきたが、実際に見て嬉しいです。というのも私は神戸市の生まれですが、市営地下鉄の最寄り駅にはかっての神戸市電の模型と紹介文がありました。 神戸市電は広島で走っていますが、この碑を子供の時から見ていたのです。
- 学生時代は京都で過ごして京津線という路面電車に接しました。今は地下に潜ってしまいましたけど。
- 東京時代はもう地下鉄ばかりでたいへんでした。 広島に来てからはちがいます。
公共全般の情報
- 「中国地方交通審議会広島県部会」において広島市の都市交通問題についても審議をしている。平成13年度中には審議を纏めたい。(注)この審議会は、各県ごとに10年後を目標年次とした交通体系の在り方を提案する機関である。
- 国内旅客輸送の機関分担率の推移を見ると、昭和9年には鉄道は90%であったものが平成9年には20%に低落。一方マイカーは0%から60%に逆転している。 絶対量でも鉄道は減少している。
- 距離別の得意分野というものがあるが、これもかっては300km〜1000kmと広かったのが、今は300km〜500km帯はマイカーに奪われ、750km〜1000km以上帯も航空機に奪われてしまった。そのため鉄道の占める形が台形から△型に変わった。
(3/24館主補注:ここ数日FTRAINE#8公共交通談話室にて、新幹線と航空機とのシェア論議があり、「新幹線が強いのは700km(東京−岡山)までで、750km(東京−広島)ではシェアが半々になる」と論議されていました。どうも上の図はこの論議を実証しているようです。)
- 長い将来計画を立案するときには「日本の人口の減少と高齢者の増加」ということを前提に考えざるを得ない。
下記はその予測値である
- 交通機関別の将来の伸びは航空のみは伸びるにしても、他はおおよそ横ばいである。
これは必然的に質の向上の要求になる。
- 質の要求には何があるか?
- 環境への対応
- 都市内交通の円滑化
- 高齢者交通の確保
- 交通バリヤフリー対応
……この面からLRTが期待されてくることになる
- マイカーの増大はCO2の増大をもたらすが、特に鉄道と比べるとその差が大きい
輸送機関別エネルギー消費量 (平成9年度) |
輸送機関 |
エネルギー消費量/輸送量
kcal/人km |
指 数
(鉄道=100とした場合) |
鉄 道 |
106.4
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100 |
バ ス |
186 |
175 |
乗 用 車 |
659 |
620 |
航 空 |
393 |
369 |
総輸送量
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444 |
417 |
交通渋滞の課題と改善
- 道路交通渋滞の現状
渋滞による損失
[時間} 約56億時間/年(一人あたり約50時間)
[費用] 約12兆円/年 (一人あたり約10万円)
[エネルギー] 燃料消費量 約2.0倍
[排気ガス] 環境への負荷 2〜4倍
- 交通集中渋滞は年々増える一方である
そこでTDM政策が採られることになる Transport Demand Management
- 目標 都市の自動車交通を質・量ともに改善し、「快適で環境にやさしい都市交通」を実現
例:交通量の調整と自動車交通のグリーン化 更にはTDM実証実験を支援する
- どのように? 関係機関と共にTDM実証実験を行って自動車交通を調整する都市で、以下の実験事業を支援する
増便・100円バス等で公共交通のサービス水準を向上
- 環境自動車を計画的に導入する、共同集配の事業化等 …福岡・天神地区、東京・丸の内でも検討中
ETC車載機の装着とで自動車交通の流れを転回 …ETC装着車は有料道路で料金格差
- 具体的案は? TDM実証実験のメニューは、地域の実情に応じて各都市で選択可能
100円バス減収
- 共同集配により、トラック台数、走行距離は大幅減(福岡天神)
- 自家用車からバス・鉄道への転換により環境負荷が低減
- …この実験の負担は→事業者1/3、国1/3、地域1/3
皆さんからもアイデアがあれば応募してください
- 進め方は?
各地方の関係機関で役割分担をきめて進行させる (詳細は省略)
バリアフリーの課題
路面電車はバリアフリー化の点でも優れているし、中都市広島市においては
路面電車を高齢者にもどしどし使用して頂きたい。
- 交通バリアフリー化は誰のためか?
私には1歳子供がいますが、ベビーカーを頻繁に使っていた経験から、ベビーカー・
荷物を持っているときにはスロープやエレベータの有り難みが判った。
自分は「高齢者疑似体験」に参加したことがる。そのときは
- 眼にサングラス=白内障でぼやける・オレンジ色に見える
- 耳栓をする=高温域が聞こえない
- 肘にサポータと錘を付ける=前屈みの姿勢になる
- 手に手袋=滑る感じになる
これで80歳の感覚になれる
この制約でバス、JR、広電に乗ったが段差が辛い。これは判っていたが、
視覚が不足し案内が聞こえないのでこの不安感がすごいと判った。
段差もとても判りにくかった
- LRT化は旧建設省・運輸省にとって統合の効果が出やすいテーマである
LRTの利点は
- 道路路面と同じ高さから乗り降りできる
- 駅間が短い→細かなサービスができる
- 超低床車の導入は広島が全国一。 岡山にも狭軌のLRVが導入される予定である。その際には、狭軌の車内で車椅子でいどうできる技術開発が行われた。
広島市の交通体系について
- 「私の周辺部の住居から都心の庁舎まで自転車で通勤しています」
…「えー」の声が上がった。(編者注:片道約8kmで4本の川を渡るが大スロープがあり、厳しい道中)
「それでも周辺部からはかなり速く都心紙屋町に到着できます」
- 広島市は「公共交通基本計画(99年)」を発表したが、アストラムラインを3段階に分けて3000億円の費用で整備する計画であり、30年かかることになっている。
- そこで、短期間での結節改善案として広電の路線改修が組み込まれている
(1)西広島〜土橋間へ路面電車線路の付け替え直進化
(2)広島駅から駅前大橋を渡り稲荷町へと短縮路採用
となっている
- 路面電車の乗降時間がかかるのが問題だが、非接触式ICカードが開発されたので、これは時間ロスが防げ有望
- 路面電車の速達性にはアンダクロスや高架化も有効。 上記もこれも費用がかかるので国土交通省の協力が期待される。
- 広島市の交通体系については、先述の地方交通審議会で議論を深める予定。
新交通“アストラムライン”の整備効果について
今後の軌道系・鉄道には何が必要か? (私見)
- 運輸政策審議会から「新世紀の鉄道整備の具体化に向けて」が発表された。
- 21世紀には今までの手法では限界があり、新たな手法を考える時期である。
今は民間が主体である。(公営も企業体である)→投資は儲かるところへやってきた →需要不足 →投資が出来ない
- 国鉄も昭和39年新幹線スタート時までは黒字だった。
これで「鉄道は儲かるもの」の発想ができ自分で鉄道施設全般を造る。
バス・航空は自分で道路や空港を造らない。
- 今後の鉄道整備は上下分離が主流になるだろう。
造るのは別の組織でやり。鉄道会社は使用料を払い運行する
例:「神戸高速」 阪急等4社の鉄道がバラバラで結節はなかった。そこで都市内の利便性をよくするため、鉄道を造って貸した。「整備新幹線」 鉄道建設公団が鉄道施設を建設・保有し、JRに貸し付けている。
- 明治の鉄道は主要な都市間を結ぶ鉄道は、明治以降早い時期に完成していた。しかし、旧技術のため遠回り、カーブが多いため、速達性がなく、車両による高速化では限界がある。これが原因で、先述の鉄道が担える台形範囲が△に縮まった。
- 山形新幹線の例のように、高速化が行われれば本来鉄道特性のある中距離における輸送が航空から鉄道へシフトが起きる。
- 上下分離の考え方=必要なものは国・地方で作り、運用は会社でやる
難点:「どのへんまで整備をしてゆくのか?」が曖昧
私見だが「運営(例えばJRが自分の使用料(施設使用料+人件費+経費)を賄える点、これを目安にしたらよい。
これがプラスなら造って良いのではないか。
- 都市鉄道への応用→これをやれば利便性が向上
…ただしこれは初期投資が膨大。
- 山形新幹線は線路を拡げる費用を国と地方と出した。結果は成功と評価されている。
これを路面電車のアクセス改善等に応用できないかと考えている。
質疑と提案
Q:上下分離した場合の使用料はどう計算するのか
A:ケースバイケースである。
例:収支改善した部分を使用料とする。 償却費等とは無関係で、維持管理費の内容も含めた
当事者同士の話し合いと考える。
下を作っても上の引き受けがないと困るので、「足の確保」という観点からは無償に近いケースもあろう。
Q:ヨーロッパ式の運輸連合は取り入れられないか。
A:私見だが、ヨーロッパの運輸連合は参考になる。但し日本にはまだヨーロッパのような
「公共交通は福祉である」の考えが薄い。 これが日欧の差になっている。
Q:整備新幹線には疑問がある。今の財政と地方人口が減る時代である。
これの赤字は我々の税金で補填されることになる。
自然を壊してまで整備新幹線を作る必要があるのか? 将来をよく考えて欲しい。
A:もはや公共工事全体の枠を増やす時代は終わった。 トータル公共工事の中で重点化を図るべきである。
例えば、都市間鉄道を将来に渡って維持・活性化していくためには、質の向上も併せて実行する必要がある。
Q:広島市は自転車で移動するにちょうど良い大きさと思う。炭酸ガスも出ないし。
問題は安全性で、そういった都市計画を望みたい。
A:私も望んでいる。実際に走るってみると、歩道が狭く段差があり自転車向きでないと感じている。