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例会演録9
欧州路面公共交通調査団に参加して
−ヨーロッパのLRT建設運用思想に感銘− .
広島電鉄株式会社 電車カンパニー プレジデント 中尾 正俊氏 .
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2000.4.22
4/24:
INFUND解説図と
画像を追加 |
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講演日時:2000.4.19 6:30〜8:30p.m |
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場所:広島市鷹野橋 広島市婦人教育会館 |
館主前言:
先々月は米ポートランド市のLRT事情、先月は英マンチェスター市LRTとPFI制度、に引き続き本月は広電電車カンパニーの総責任者による独仏LRT事情視察記です。 外国LRT視察記といっても、観る人の立場により視点がたいへん異なる講演と化すところが興味深く、この辺が主宰者冥利かも知れません。
今回の講演の特色は「経営者から視た」ということに尽きるでしょう。 お話の内容も氏らしく率直明快で経営者の眼が光っていましたし、質疑も熱っぽくて、聴取者を魅了しました。 会後、出席者より感銘のmailを数通頂きました。 外国事情シリーズはこれが最後でしばらくありません。
講演者略歴:
1944年 広島市生まれ
1967年 広島電鉄株式会社入社
1995年 取締役電車部長
1998年 機構改正により電車部より
電車カンパニーとなる |
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豪雨の中を集まった聴衆 . |
映写機材担当者も講演を支えている |
講演要旨
私が訪欧団に参加した目的
- 今の時代は企業が“現況を維持する”という政策をとれば限界がある。あえて高価なLRTを導入しノーマライゼーション時代に対応しているつもりもその考えからである。
- 低床車Green Mover は好評のようである。 それは乗り降りがし易いのと、デザインが街の風景に美観を加えたことにあるらしい。
- 今回ヨーロッパ各都市再訪したのはチェックをするため。 行ってからは、ヨーロッパの皆さまとのディスカスにウエイトを置きたかった。
具体的目標は3つ
- 電車・バスのホーム共有化の状況。広島でもバスの再編があるので参考にしたい
- 路面電車から郊外の鉄道への乗り入れ実況確認
…広島でも広電市内線から可部線と芸備線へ乗り入れできれば市民はたいそう便利
- ヨーロッパの新線建設と道路共用の解決法は? 市民との合意形成の実態は?
参加団のプロフィール
ツアー名:欧州路面公共交通調査団
団長:依田和人(日本交通計画協会副会長 もと慶応大学の都市計画の先生)
副団長:日野祐滋 建設省 都市局街路課特定都市交通施設整備室長
他 県市の代表者10名 事業体と関係団体代表者10名
マンハイム市の路面電車
- 広域的運営をやっている
- 市内58km 市外63km 16km 計137km 7系統
- トランジットモールが都心に1.6kmある
- 利用者は年間9,290万人。 市内58kmでは6,050万人で、これは広電市内線+宮島線とだいたい近似。
- ピークは10分毎 オフピークは10〜30分毎
- 電車のスタイルも良い
- 30m車を2連結して走っている
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館主注:以下4枚の画像は会場にて投影写真をデジカメ撮影したものです |
ハイデルベルグの路面電車
- マンハイム←→ハイデルベルグ間の接続電車あり 90km/hで走る
これは直接路面電車線に乗り入れる。 両市は路面電車で直結している。
この案はあの渋川〜前橋案に似ている
- 運営は交通運輸連合HSBがやっている。 低床車
- 電停はバスと路面電車とが向かい合っている
「歩かせない。濡らせない。待たせない」
これが乗客サービス3大原則
- 広島駅のJR駅〜広島電鉄乗り場間の屋根無し30mにもぜひ屋根を付けさせて貰いたい。
- 欧は路面電車を郊外鉄道乗り入れ型に直して都市活性化に役立てている。日本は数十年前の欧の姿。20〜30年遅れている感じ。
広島市では可部線の廃線化が論議されている。 例えば路面電車の可部線乗り入れをすれば活性化するにちがいない。
- 官の制度として都市計画、道路計画、交通計画を三位一体として欲しい。
日本では交通計画が最後に立つ。これでは時間ステップが逆で損失多大。
- ハイデルベルグ市では路面電車は乗客が増えているがバスは乗客減である。そこで人件費圧力を回避するためにバスを減らして電車に回す“行動トレンド”がある。市民とは円卓会議を実行。
- 建設費は85%を州・国が負担。15%がHSB
- 日本で建設費の国の補助第1号は豊橋。 第2号は岡山か広島か。
- 電停を電車とバスが共用しているのも特徴。 →降りたところで待てばよい。
- この都市圏は27.5万人 学生の街
- 路面電車は20.7km (広島18.8km) そこでの利用者数年3850万人 けっこう多いと思う
- 延伸計画も検討中で 2001年〜2004年に実行
- 延伸理由
大気汚染対策
バスより輸送力大
人件費が小(バスの1/3)
寿命が長い
・・・・・ (以下略 編者注 ともかくたくさんあります)
- 運営形態=運輸連合方式=SWH電気・ガス − HSB路面電車・バス −
HGG駐車場
- 欧の補助制度に対し日本は採算第一 →利用者予測オーバー+建設予算過小 が発生しがち
実態 総運営費 10,000万DM
収入 4,000
税金 1,500〜2,000
障害者調整金 不明
SWH等の余剰金 −−総運営費から上記を引いた残額
- 割引制度も日本は全く違う
欧…障害者は無料 →州負担
日… 〃 →事業者負担
日本は全く違う。学生定期に及んでは6割引である。それが座席はいちばん良いところをワッと占領する。
ともかくこれが赤字の大きな原因である
- 同市担当者の回答では
住民サービス:コストではない
プライオリティ:利用者が多いことが前提
市長・市議会から“料金を安く”の要請 →建設コストの回収が出来ない
特定財源はない →一般財源から
ガソリンには60%の税金が上乗せで実施
- 駐車場料金も日本より高め それも駐車場所により安いのと高いのと差別して設定する
- 大企業から税金をたくさんもらい、それを公共に回すの思想
カールスルーエ
- 市中心がトランジットモール化されている 1.1km
- 市内線 70km 郊外鉄道乗り入れ130km 市内5系統 乗り入れ6系統
年間4000万人
- ドイツ国鉄DBへの乗り入れ線の延長計画がある
- モールなどでは電車の前を市民がすいすい横断している
日本ではどうか。 広島駅前のバス停は道路を横断すれば駅から10秒で渡れるところを地下道経由になっていた。最近やっと横断歩道が出来たが。まだすっとは渡れず大回り。
- 旅行して痛切だったのだが、向こうは電停、バス停のサインボードが分かり易いこと。
行き先も全て数字による系統番号。直感的に理解できた。
- これは広島でもよそから来る人のためにぜひ改善をします。
ザーリュブルッケン
- 延長 19km
- 下図のように系統と発車時刻表示をしていた
- 広電も時刻表示をしたい LEDかフラットパネル方式で
- Green Mover の通過時刻等も携帯のiモードで聞けるようにしたい
広電も実験を考えている
- ここでは犬も乗車していた。社会参加か? ベビーカーコーナもある。
- 車両は全面床でなく3段式にしている。即ち70%低床車。これは従来の台車で出来、安くできる。
- 車との共存で、道路の片側に電車を入れて、車道は半分にし一方通行にしていた。
- 路面電車の舗装はアスファルトの上に白い砂をかけてOKとしていた。 合理化
- 勾配がきつい。80パーミル。これをぐんぐん登る。
これが日本と比べて多く一般的。 4車軸直結全輪モータのため出来ること。
勾配途中の電停では80パーミルもあった。日本では5、例外でも10パーミル。
- 市は市民に対する路面電車新線計画についても公聴会を熱心に開いている
- こういった公聴会の大ポスターを市内のあちこちで見かけた。
車線減少に対する住民意見を聞く。但しかなり強引に実行はやる。もっとも反対意見も少ないので。
シュトラスブール
- 4/15TV放映「ウエークアップ」番組中にてストラスブールを詳しく報道されていたので詳細は省略
- 現在総延長は12.5km (94年A線営業開始) B線延長12.2km工事中
将来は総延長35kmのネットワークを計画
- 専用軌道 分離帯とセンタポール採用 バスの軌道乗り入れ
- 案内サインが分かり易い
パリ
質疑
Q:トランジットモールの商品搬入方法は?
A:時間指定規定があり搬入は問題ない
Q:欧は全部運輸連合、3セクでやっているが広島でやるにはどうやって合意が得られるか?
A:
- 新線建設も含めて日本では難しい問題だ。
例えばアストラムは3セク 赤字は一般財源で負担 広電は民間会社→赤字補填は一切無い つまり同じ公共交通をやっていても公的資金が入る →対応はいわゆる公営にして運賃を抑えるしかないだろう
- チケットキャンセラも民営なら5〜10%の運賃不収入があれば経営危機だ。
- バスが値上げすればマイカーが増える。デパートでは2000円以上買えば2時間駐車券が出る。
- やるならチケットキャンセラ、パーク&ライド、等々総合的にやり税金で補填
- 欧で合意ができたのは「環境」からきた。 例えば環境定期が生まれた。日本では環境意識がない。 日本で私鉄に補助すると「なぜ株式会社に補助するのか」の異議が出る。従って広電も3セクになれば(補助が)可能であろう。
- 広島で運輸連合やるなら広島市が束ねたらよい。それで“乗り継ぎカード”の発行を
→「お客にメリットがあること」が大事
- 広電バスカンパニーは雨の日には臨時増発している
- 広電は路面電車市内(比治山線・宇品線)に3連接大型車の乗り入れを始めた
- 平和大通り線案で何を期待するのか?
→ここでは「環境を考え、人間優先のまちづくりを」の理念がないから、すぐに反対する。トランジットモール案もすぐ反対。噛み合わないのが現状。
- もうひとつ。「チンチン電車はジャマだ」の意識が現存する。 だが、廃止したところで渋滞が解消した都市は存在しない。
- 京都ではかって市電を廃止したが、観光客にとってちっとも良くなっていない。タクシもマイカーも動けない。タクシの運転手から「昔、路面電車があった時の方が通行が良かった」と聞いた。
- ヨーロッパでは、施政者がLRT設置に市民にお百度を踏み、啓蒙をやった長い長い歴史があるのだ。 それでグルノーブルでは51%賛成、49%反対でLRT化に踏み切った。日本でできるか?
- 日本では個の権利が公より強い。 しかし今や建設省、運輸省がLRTに一所懸命になっている。
- 国土交通省になって連携の目玉はLRTになると期待している。
Q:市民の合意形成へのアピールはどうしているか
A:
- 昔から行政に「広電は何を考えているのか解らぬ」と言われた。
今は「こうしたい」「これが問題だ」とはっきり言う。広報や情報公開も真剣に検討している。 もうちょっと早くやればよかった。 どんどんやれば市民に直結できる。
付:広電の今後の計画について紹介
1.平和大通り線の延伸
- 先般申請した平和大通り線のうち、西の部分、西観音町より江波線までが市より認められた。
- 問題がある。江波線までの付け替えを認めても、広島市の橋の付け替えの順序が東の平和大橋、西平和大橋、緑大橋の順で付け替え、各6年かかるそうだから、広電の土橋延伸工事は約20年後ということになる。 広島の交通渋滞は西部郊外からの流れ込みが大原因なので、いちばん西の緑大橋から建て替えを始めて、渋滞が少なくなる都心の橋工事を後回しにしなければ、マイカーも電車乗客も助からない。 着手順序に疑問がある。
2.宇品電停の移設
- 宇品広島港地区は県が広島港ターミナルの移設を決めた。それに応じて広電も西へ線路を延伸し、新電停を設置する。
3.電停強化ガラス
- 鷹野橋電停を最近作り替えた。 特徴は強化ガラスを使用したこと。キレイ、洗浄がしやすいが特徴。紙屋町電停上屋も新作はこれでやる。見てください。
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4.インファンド工法の実験
- ドイツの新しい技術でインファンド工法というのができた。これは枕木に相当する部分がコンクリートスラブだが、レールを取り付ける締結装置が無く、その代わりにレールを溝の部分に据え付け、樹脂材を充填しレールを固定する方法。表面は芝生を貼り美麗。 レイルの取り替え時は、樹脂をカッターしてレイルをスポッと抜き取る。 来年完成する紙屋町地下街周りの軌道復旧はこれでやるつもり。成功すれば建設省の補助対象にしてもらいたいので、ぜひ成功したい。
4/24:下記解説図追加