例会講演録6

都市のシナリオづくり−札幌のLRT市民活動を聴く−

       「:LRTさっぽろ」代表  吉岡 宏高氏
99.11.20
99.11.21補筆
.. 講演日時:99.11.17 6:30〜8:30p.m ..
場所:広島市鷹野橋 広島市婦人教育会館

館主前言:

 かねてから札幌市で行われているLRT拡張運動には注目していました。この夏運動案の総纏めが「LRTさっぽろ」により「LRTが走る2015年の札幌 −新型路面電車システム導入によるまちづくり提案書− 」を発表され反響を呼びました。館主も入手一読して、この提案書の作成者が都市交通の専門家集団によるもので、当会の提案書とは発想、手法、記述内容などがかなり異なっている部分があることに関心をもちました。
 実はその代表者である吉岡宏高氏は2年前より「路面電車を考える会」の正式メンバーとして参加しておられ、E-mailなどではよく知り合っていたのです。ですが直接お会いしたことはありませんでした。
その吉岡さんが、広島市の交通事情研究にて来広されるのを機会に、札幌市でのLRT市民活動について当会にてご講演をいただくことになりましたが、拝聴してみてたいへん参考になりました。一緒に聴いたメンバ共々今後の「広島LRT研究会」研究にもいろいろ参考になると評価しあったことでした。


講演者略歴:

1963年札幌市生まれ
1986年福島大学経済学部卒業
1985年日本甜菜糖(株)入社
1991年たくぎん総合研究所入社
1997年まちづくりコーディネータに
1997年LRTの研究会が発足



講演要旨

 本講演の要旨は当日参加の会員藤井正史氏が「FTRAINE(7)まちづくりの交通 1☆LRT・路面電車等」に掲載された原文によるものが殆ど全部で、館主がほんの少し補足をしました。藤井氏さん、ごくろうさまでした。m(_ _)m
 図版等の掲載は講演者の了解を得て館主が作成しました。 
11/21 講演者吉岡氏に閲読をお願いし、読者により正確に理解していただくため、原典の修正と補筆を行いました。m(_ _)m


まえおき


札幌の研究会の現状


提言書「LRTが走る2015年の札幌」


悪くなるシナリオと良いシナリオ



都市の基本構造を3段階に考えた/イクラ-筋子-ウニ

  1. 住民合意を確実に得ることができ、地区の自決権を確立できる人口規模は、6,000〜10,000人であり、これが都市の基礎的な単位となる。これは、札幌市の既存計画、学説、まちづくり運動の経験則、町内会単位などで裏打ちされている。これを「イクラ」生活単位として捉えた。
  2.  さらに、「イクラ」が10個くらい集まった範囲を「筋子」地区単位とし、これを行政の基本単位とする。「筋子」には、明確に一つの核を置き、行政支出を定額方式に転換する。札幌市は、人口180万人なので、60,000人/筋子とすると30の「筋子」ができるが、都心部に近いほど面積・人口規模を小さく、郊外部になるほど面積・人口規模を大きく設定する。行政投資は、「筋子」単位の定額方式なので、陳情合戦や持ち回り整備という弊害を防止するばかりでなく、郊外部では市街地の拡がりに対応できなくなり、徐々に市街地集約のインセンティブが働く。「筋子」の核は、都心と軌道系公共交通機関での連絡が担保される。これを札幌の新しい公共交通のシビルミニマム(=最低限の水準)として考えた。都心と筋子核を結ぶ公共交通は、シビルミニマムだから、いくら乗客が少なかろうが、ユーザーサイドの設定にたって、5分間隔程度の高密度運転を維持する。その一方で、都心部は、札幌全体の共有財産だから、各「筋子」とは別枠で強力な都市空間整備や施策展開を行う
    人口として分けることで、優遇措置を設けるわけです。
  3. 当然、都心内の公共交通機関は、高密度ネットワークで網羅される。このような都市の原則を貫くと、50年くらいという長いスパンの間に、郊外部では軌道系公共交通機関の沿線に人口が集約され、中核の都心部の密度は向上し、「ウニ」のような形態に市街地を収斂することが出来るだろうと考えた。その筋子と都心を結ぶ軌道系交通機関を設けることを、行政が補償するシビルミニマムの整備として考えた。いくら乗客が少なかろうが5分間隔程度の高密度運転をしていく。
     50年ぐらいでウニの棘みたいな、軌道系交通機関沿線に都市形成が出来るだろうと考えました。


LRT


まとめ


質疑

Q:地下鉄が50kmもありますが、郊外部の人口密度は低く建設費とコストがシビアですからそA:3路線の建設費が7,000億円。南北線は、定山渓鉄道の線路敷を高架に転用するなど投資軽減策や、オイルショックのインフレで建設費が上手く目減りしたこともあり、投資負担はさほどではなかった。東西線は、JRと平行しているが、新札幌・琴似という2拠点を結ぶ都市構造上の必要性と、沿線の施設立地から見ると必ずしも否定的なことばかりではないだろう。問題は東豊線で、路線設定を含めて補助事業にホイホイ乗って整備してしまったツケが大きくきている。積雪寒冷の札幌にとって地下鉄は必要不可欠な存在だが、どこまでの投資が最適だったのか、この装置を有効に使っているのか(バスなどとの乗り継ぎも含めて)検証が必要。現在も、延長候補が2〜3ヶ所あるが、今回我々が提言したLRT網と同等の建設費がかかるので、慎重な選択検討が不可欠
の関係は?


Q:縁側都市とは?

A:中心市街地の整備についての概念。道路は都心の約20%の空間を占め、唯一のオープンスペースであり、これの活用が都市のアメニティーを規定する。従来の道路は、移動空間としてしか捉えられていなかったが、これに活動空間とか快適空間という概念を取り込んでいくという考え。ここで、移動空間として自動車を一方的に規制するだけでは都心部の衰退をもたらす恐れがあるので、公共交通機関の利便性向上とともに、バランスをとった段階的な整備が不可欠。


今後の都市計画の方向性は、用途純化ではなく、用途の混合がメインとなる。これで、都市の界隈性や個性が出てくる。ゾーン主義という考え方を転換するには、物理的・金銭的・時間的な移動障害の克服が不可欠であり、そのためにLRTは有効。ドイツ・カースルルーエが成功例と考える。