例会講演録2

 広島市に運輸連合制度の導入を 

 広島市市会議員、市交通特別委員会委員 太田憲二
98.10.27
講演日時:98.10.7 6:30pm〜8:30p  
場所:広島市鷹野橋 広島市婦人教育会館

館主前言
現在日本各地においては、公共性のあるバス、路面電車、鉄道等は車社会の発達により不採算→縮小→更なる不採算→撤退の悪循環を繰り返しているように見えるものもあります。こんな前提条件で21世紀を迎えるなら、多くの都市は環境には問題のあるマイカーによる更なる交通独占社会の到来が憂慮されます。講演者太田氏は広島市議会委員であり「都市交通問題調査特別委員会」委員でもあります。氏は日本の未来交通問題を予見し,欧州にて実績のある公共交通機関の財政的協力体制を日本に取り入れられぬかと研究を積まれています。 このたびは持論である「広島市で採用できるはずの日本式運輸連合の概念と提案」として公開の講演を披露していただきました。氏は私鉄中国労組広島電鉄支部の委員長でもあります。
 ヨーロッパの運輸連合の実体についての情報は提供されているが、これを具体的にる都市に当てはめて考え、市民がどう反応したかの実例は全国的な観点からも参考になろうかと考え、板崎勝美氏の記録されたものをこのたびUPしました。m(_ _)m

講演要旨|はじめに
 
運輸連合とは、公共交通(電車・バス)にたいし、円滑に、運行するための公的支援を国が行うものです。それによって競合路線の調整や運賃の共通化及び乗換運賃の無料化など利用者にとってのサービス向上が図られるようになります。
運輸連合を具体的に説明の前に、公共交通の意義や交通そのものの位置付けが しっかりしてないと、運輸連合、つまり公的支援の意義が成り立たなくなります ので、先に交通について述べます。

交通の意味として考えた場合、大きく分けて三つに考えられる。
一つは、生活基礎としての交通が考えられる。
(通勤・通学・買い物・通院-社交-レクレーションなどの人の移動を中心とする交通)
(農林水産品・工業製品・情報等の生活に必要な物資の輸送としての交通)
二つは、文化としての交通。
(旅行・散策・サイクリング)
三つは、国土保全としての交通。
(災害時に緊急・安全に避難でき、救助活動も迅速に行えることも広い意味での 交通である)

 一般的に、公共交通とか交通と言われていますが、たいへん広い意味があり、私た ちの生活に欠かせない、たいへん重要なものであります。かっては、衣・食・住と言 われていましたがこれに交通の交を入れて、衣・食・住・交というほど交通は重 要なものだといえます。

交通の権利として考えた場合、憲法からみた交通として考えられる。
憲法第25条では、
 「すべて園民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
憲法第22条では、
 「居住・移転・職業選択・外国への移住などの自由を保障する」
二つの条文からでも、私たち国民は、生活する上で最低限度の交通の権利を持っ ている。
逆に言えば、憲法ですから国は、それを保障する義務を持つと言えるのではない でしょうか。又、交通の権利を言い換えると、交通の『自由』ともいえる。
交通の自由は、交通渋滞や交通事故、交通公害や高料金などからの自由と言えま すし、いわば「交通阻害要因からの自由」、安全・低廉・快適・便利に職場や学 校などへ行くことができる、つまりアクセスの自由と言えます。

 交通の原則から考えた場合、四つの原則が考えられます。
一つは、平等制の原則…「誰でも・どこでも」  子どもも、高齢者も、障害者も平等に交通として移動できる
 大都市でも、中山間地でも、離島でも、どこへで
二つは、利便性の原則…・いつでも-安全に・快適に・安く・速く
 平日、土日、何時でも
 安全性を高めるための技術革新や環境整備
   駅の整備や連続性、乗物の改善、料金体系  渋滞解消や技術革新
三つは、経済性の原…・資源を浪費しないこ
ニ 工ネルギー資源の浪
 渋滞等による時間の浪費
四つは、整合性の原則…・陸・海・空の交通の整合性
 住宅や産業施設との合理的な配置
 交通運営の側での整合性(合理的運営)
 都市計画の中で交通との整合性

 今までは、平等制・利便性・経済性などが重要視され、渋滞解消や利便性の解 消といった改革がなされてきましたが、これからは整合性の原則の所が、たいへん大 きな意味を持ってくると考えます。例えば、都市計画の中で交通をどう位置づけ ていくかが重要であり、端的に言えば、今までは「渋滞しているから道路を作り ましょう」という計画をしている。実は、整合性の原則からとらえますと、都市 の中での空間をどう利用するか、都市空間の有効利用の観点から、そのための道 路の配置や住宅・産業施設の配置、公共輸送機関の配置など合理的に計画してい く視点にならなければいけない。


●交通問題の改善・
 交通問題の視点として考えた場合、交通間題改善として対処療法と原因療法の 二つが考えられる。
対処療法
A 車の急激な増加が起こり、渋滞や交通事故が増加し、これらを改善するために、道路建設や信号などの設置をする、そのことにより更に車の増加が起こり、渋滞・事故の増加といった具合に、こうしたことが繰り返し重点的に行わ
 れてきた。
原因療法
A 車の急激な増加が起こる、個別の対処療法だけでは改善できないので私的交通の交通総量を規制しようとする視点である。

 交通を議論する時に、環境問題から見た交通、あるいは高齢化社会を向かえる に当たっての交通、都市の財政から考えた交通などを含め、潤いのある生活が出来る交通・空間が重要であり、日常生活の場所である街を『人』優先の視点から考え直す事が大事です。潤いのある生活という視点では次の海外事例があります。
  
●海外事例・・
ストラスブー・・市内中心部の自動車交通の約4割が通過交通であることから、中心部への自動車交通乗り入れを厳しく規制し、歩道の拡幅や路面電車の新設等により、都市を生活するスペースとして改善 した。その結果商店街は活性化し憩える街ができた事はご存じの とおりです。

アムステルダム・・2005年を目標にアムステルダム都心の自動車トリップを約 30%カットするという計画のもとに、幹線道路を大胆に一方通行にし歩道を拡幅し人々が憩える空間づくりを行っている。都市計画局の方の話では、「我々は失われた公共空間を取り戻したいので す。歩いたり自転車に乗ったり買い物をしたり、空間を利用して大道芸や音楽広場などの充実した生活空間を取り戻したいので す。といって自動車を頭から否定しているのではありません。」

メルボル……オーストラリアのビクトリア州にあるメルボルン。人口約300万人のこの街では、環境問題への市民の関心は高く、バスや路面電車が有効に機能している。

シンガポール…国土の狭さの中で、極端な車規制を行っている
B
●日本の事例・
浜松市……昨年12月にオムニバスタウンによる街づくりを進めている。昨年 5月に国が制度化したもので、バスを使って街を活性化しようとするものです。その中には、車を規制したトランジットモールや憩える場所づくりという『人』の精神が多いに含まれている。

1、 都市の空間を、『人』が歩ける・憩える・集まれる空間として考える視点
2、 これまで空間を占有していたマイカーには少し遠慮して頂くという視点
3、 そのための交通の装置として、路面電車やバスを有効利用し、又地下鉄や鉄道などとの機能分担を明確にし密接に連携させるトータルネットワークの視点

(参考1)  交通事業者 協力体制の類型(ドイツの区分に基づく)について


●交通事業者の協力体制は、
 ・協力・調整する内容の程
(乗継運賃不要=運賃の共通化、路線・ダイヤ調整の程度等)
  ・経営・組織の統合有無=各事業者の経営自主性の程度
(各事業者の完全な独立経営⇔事業体統合)によって、一定の区分に類型化される

協力・調整の程度各事業者の自主性類  型内  容事  

部分的
   ↓
完全な独立経営     ↓ (イ)提携-部分的協力 共通券(カード)販売
A乗り継ぎ運賃割引等のレベ
広島でも共通カードや乗継運賃
割引の事例あ
全面的 自主性を維持 (ロ)運賃・運行提携
協定による・上部組織なし
乗継運賃無料化(=運賃の共通化)
均一もしくは ゾ-ン運賃化,・ 運行上の協力
パリ(仏)の「カルトオランジ
(協定による共通運賃化)ほか
(ハ)運輸連
統括する上部組織形成
調整(路線・ダイヤ等
j内容的には(ロ)(ハ)はほぼ同じ
ドイツの各都市の事例が典型的
完全な同一化 統合された事業者は消滅 (ニ)統合・合併 事業体・会社組識自体の一元
サ( 買収や合併による)
戦前の日本における私鉄統合や
A東京の地下鉄の営団化ほか

●運輸連合になるとどう変わるか
(1)資料で見る現状
利用者の推移
事業者の現況   
公的支援 (資料別添)

(2)事業者からみた運輪連合
民間企業は利潤追求が原則である。しかし赤字路線でも可能な限り維持しなければならない公共交通を民間企業が運営するという矛盾を抱えている。また障害者の半額制度なども事業者の独自負担でやっている。
バス路線は減少し便数も少なくなってきている。赤字-減便-赤字-減便の繰り返しで事業存続も危ぶまれている。
現在の利用者数を企業が均等に配分しても意味が無く、公的資金を導入し運輸連合的制度を作り、利用者全体を増やさなければならない。

(3)利用者からみた運輸連合
料金が高い… 乗り襖の度に初乗り料金を取られる バス-路面電車葉20円引き
路面電車は無料
赤字になれば利用者負担として転化す
家族連れでは休みの日に利用すれば

運輸連合では… 乗換の初乗り料金を公的負担としたり、一定のゾーン内であれば一定時間乗換自由料金は公的負担で抑えることができる。
グループ利用の場合の減額処置も検討できる (すでに企業独自の取り組みでエコ定期もある)

ダイヤが不便… 企業独自のダイヤで乗り継ぎや連携を重視していない
路線が複雑で分かりづらい.
企業競争の中で競合路線があり、その地域ヘバスが集中 し、他の地域は便数が少なくなる

運輸連合では… 運輸連合で都市内のトータルダイヤを編成するので、乗り継ぎなどが便利になる
路線を単純化することができる
B黒字路線も赤字路線も適当なバス便が確保でき、都市内の面的サービスが拡充される。

例えば 己斐地区からバズセンターまでの路線を見るとこれまで… 己斐峠〜〜〜己斐駅〜〜〜バズセンター(乗換)
 広電バス 広島バス  160円 +  220円  = 360円 (−20円)

最近… 己斐峠 〜〜〜〜〜〜〜 バズセンター  広電バス = 350円

(4)行政からみた運輪連合
現行体系では、 公共交通に財政的支援を行わなければならないが、広島のように企業がまちまちでは、財政支援が非行率で結果として高額になる。
運輸連合制度では、財政支援が結果として低額に抑えることができる。
社会福祉の観点から、民間企業で維持できない赤字路線を守ることができ、市民へのサービスを提供する事となる。


これからの課題
市民の合意形成の必要性と行政・事業者・市民の連
g
(環境・福祉・財政・都市空間づくり)

これからの課題という事では、発想の転換をしないと、運輸連合という制度として形を作っていけない。
  例えば、事業者は公的支援を受ける事になり、ある一定程度の自由を少し束縛されます。それをどう理解するか。行政は、一定の支援と財政負担を求められる、参考例ですが横浜420億円、大阪400億円、京都380億円、仙台200億円、名古屋520億円と言った具合に公共交通に投資しています。
 広島市の場合は、まだこのような公共交通に投資するまでには至っていない。又、このような取り組みに、市民の合意形成が大変重要になります。
 マイカーを一定程度、規制しようとすることですから、路面電車・バスを優先的に走らそうというだけでは、理解をいただけません。
 住み良い広島の都市圏をどういう空間に作るのか。憩える空間にするのか、広島の限られた土地をどう有効利用するのか。21世紀に向けて、どういう都市づくりをするのか。このような視点が大事ですし、市民合意形成ということには、多くの時間が必要だと思います。


【質疑】

QA大変魅力的なお話を聞いて、興味深く思いますが、今、社会は規制緩和が言われていますし、市場経済の問題もあり、語弊が有るかも分かりませんが、少し社会主義に傾いているような気もするのですが、日本で言うお上の感覚と違うのではないかという気がします。

A、全産業的に、規制緩和ということですが、実は、運輸省は今までの交通政策の流れが平成6〜7年度位に大きく変化してきています。それまでは、地下鉄建設や大量の道路建設を行ってきました。
 平成7年度の運輪白書では、既存のものを有効につかいましょうと言う言葉が随所に出てきています。交通需要マネジメントと言う言葉も使われ、車も一定程度規制しようという変化が出ています。又、交通を考える人達も、運輸連合的な制度で公的支援を一定程度しなければ、公共交通は駄目になるといっています。
 国の政策もそういった流れがあります。
規制緩和と言う流れと公共交通優先をしていこうという流れがあります。オムニバスタウン制度などがそうであり、公共交通優先や利用促進のため一定の支援が行われています。そういった意味では、行政ど事業者が一体となって取り組んで行く事が大事だと思います。


Q、太田先生は、交通間題調査特別委員会の委員でありますが、今、広島市で議論されている新規軌道系導入の特別委員会ですが、解散されると今議論されている事は、解散されるまでに結論を出されるのか。それとも解散後に新たなメンバーで引き続き議論されるのか、今後どのようになるのか教えて頂きたい。

A、 流れとすれぱ、任期交代するまでには、一定の報告が出ると思う。それが中間報告となるか、途中取りまとめとなるか、いずれにしても年度末には、一定の報告が出る。それが議会の報告となり、市としてどうするかという問題はこれからの議論になります。


Q、市民の合意形成が重要になると言っていましたが、日本の場合、合意形成する場所、特に、-般市民、利用者の声をどのように意見反映をしていくのか、お考えがあれば教えてほしい。

A、難しい問題でありまして、これというものがあれば私も教えてほしいと思っています。今回、講演した運輸連合ですが、実は議員になってから、市に質問し、関係者が取り扱ってくれるようになったのが、3年かかっています。
非常に時間がかかると思っています。市の行政の人達に認識を持ってもらうのに時間がかかっている。ましてや110万の市民の皆さんに理解して頂くのは、随分時間がかかります。例えば、今日こうして皆さんと話し合えた事が、別の場所で広がって行って宣伝になれば有り難いと思っています。
シンポジウムなどいろんな行動を地道に、粘り強く取り組む事が大事ではないでしょうか。大変恐縮ですがそう考えています。

                                        以  上